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第106話
───ドスン。
結空の体がベッドから床に落ち、鈍い音を立てた。
「ってぇ……」
咄嗟に手が出て、一番痛かったのは先に着いた手だったが、胸も打ち付け、あまりの滑稽さに自分は何をしているのだろうと悲しくなった。それと同時にドアが開く。
結空が顔を上げると、透の顔が結空を覗き込み、その表情は心配そうに歪んでいた。
「大丈夫!?」
「あ……うん。ドンくさいね、俺」
纏わりついていた毛布を体から剥がし体勢を整えようとした矢先、透の手が伸びてきて、きつく抱き締められた。
「結空!!」
「あ……、あ……」
透の体からαの匂いが立ち込めて、居てもたってもいられない。このままでは透を巻き込んでしまうと思い、両手で透の胸を押し返した。
しかしうまく力が入らず、透の胸はびくともしなかった。
「もう……、お願いだから俺を頼ってよ!結空!」
「ふっ、ぅぅっ」
ため込んできた色々な不安がどっと胸に押し寄せて、涙となって溢れだす。
透は結空を抱えてベッドへ下ろし、部屋のドアを閉め、内鍵をカチャリとかけた。
「結空」
「透……」
透が結空の隣に腰を下ろし、結空は透に吸い寄せられるように透の膝に跨った。
そのまま透の首に腕を回して抱き着く。
パジャマの中で勃起した結空の性器が透の腹に当たっている。結空は我慢できず、布越しに透の腹へ擦りつけた。
「結空、気持ちい?」
「うん……ごめん透、我慢できない」
「触ってもいい?」
結空は無言で首をこくこくと縦に振った。
むしろ触ってほしい。透にしてもらう方が数倍感じて少しは発散できるだろう。
「腰あげて」
結空は言われたとおり透の膝に跨ったまま腰を上げた。
透の手がパジャマの中へするりと入り、性器を握る。反対の手は後ろから入れられ、ぬかるんだ後孔を慈しむように指で優しく撫でまわし、すぐに二本の指が挿入された。
「んっ、んぁっ……」
透はその手を優しくゆっくりと動かしながら結空に話しかけた。
「最近あまり会えないけど、新しいクラスはどう?」
「ぁんっ、ん、もぅ慣れ、たっ…」
「ほんと?Fクラスは曽根崎よりも質の悪い連中がいるから心配だよ。結空のフェロモンはβの男も煽るから。あの子とはうまくやってる?赤峰」
「うぅ……ぅん」
「それならよかった。困ってることはない?」
パジャマの中からちゅぷちゅぷと音がする。後ろを指で抜き差しされている音だと思うと、透の性器を挿入されているような気になって腰が揺れる。
緩く続く快感にぼうっと酔いしれながら透の言葉の意味を考えた。
勉強が、気になっている。どうせ就職するのだからと医者にも教師にも思われているのを知ってしまったから抗いたくなったのかもしれない。
だけど結空はΩに転化する予定はなかった。元々進学するつもりで透と同じ高校へ行ったのだ。
未練があった。
「とおる……、おれ、っ、べんきょ……したい……っ」
「結空……!そっかぁ。そうだよね!結空は頑張ってたもんね。こんな風にヒートで遅れた授業の分は俺が教えてあげるから。結空、一緒に頑張ろう」
透の指に感じすぎて舌足らずでろれつの回らない返答になってしまったが、透は結空の気持ちを理解したようだった。
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