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第108話
その後透は結空の発情期が終わるまで、学校帰りは結空の家に寄り、結空のクラスメイトからノートを預かってそのコピーを届けてくれた。
結空の性欲をまず満たし、ノートコピーと教科書を照らし合わせ、結空のわからないところを熱心に教えてくれた。
結空のヒートを散らし、遅れを取らないよう献身的に尽くしてくれた透。
言葉では言い尽くせないほど、結空の心は感謝の気持ちでいっぱいだった。
薬を一切使わず過ごした一週間。
濃密な時間を透と過ごし、お互いの距離がぐっと近付いた気がした。
透は結空の全てを受け入れてくれる一番の理解者であった。
発情期を終えた休み明け、結空は久々に登校した。
どこまでできるかわからないけれど、やれることは頑張ろうと意気込んでいた矢先のこと。
教室へ入ると結空の机には油性マジックで心ない誹謗中傷ととれる落書きがしてあった。
「なに……これっ……」
発情中!、ビッチ、ケツマ〇コ、エロΩ。
辛いヒートを超えて久々の登校だっただけに、かぁっと頭に血が上り、胸に苦いものが込み上げてきて思わず机に拳を叩きつけた。
「おはよ。何怒ってんの?結空」
「ルイ……これ、誰が書いたか知ってる?」
ルイは結空の後から教室へやってきて結空に声を掛けた。ルイはその落書きを見てつまらなそうに目を反らし自分の荷物を整理する。
「んー。知らない」
結空はスラックスのポケットからハンカチを取り出して落書きの文字を消そうとゴシゴシ擦った。
しかし机に付いてしまった色は濃く張り付き、ハンカチはその上をただ滑るだけ。
落ちる気配は全くない。
「なんだよこれ。消えないマジックじゃん。ひどい」
「まぁよくある話だよ。今まで結空は薬で発情を散らしてきたじゃない?それが急に一週間も休んだから気になったのかも。女の子の生理に興味しんしんなエロガキみたいなのがいるんだよ。元々結空に興味あった奴が興奮して思わず落書きしたのかもね」
「……それが本当なら気持ち悪い」
「まぁね。落書きくらいで済むなら安いもんだよ」
「……」
そういうものだろうか?
怒りと恥ずかしさと悲しさと、全てが入り交じった感情を露にしている結空とは対照的に、ルイは至って冷静だ。
もしかするとルイもこういった経験があるから冷静でいられるのだろうか。
鬱々とした時間を過ごすなか、恭也が女子生徒からアセトンを含んだ除光液を借りてきて、結空の机の落書きを消してくれた。
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