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第109話

「結空、大丈夫?」 恭也が薄いそばかすの浮いた顔を不安げに歪ませる。 「うん大丈夫。恭也、色々とありがとな。休み中も透にノート渡してくれたのって恭也だろ?それにこの落書きも消してくれてありがとう」 「いいよ全然。それよりこの落書きひどいな……。俺じゃ頼りにならないかもしれないけど、出来るだけ一緒に行動するからな」 「恭也……」 3年に上がる前は曽根崎という超危険因子が存在していたけれど、気の知れた渡辺や太田が一緒だったから挫けることなく学校生活を送ることができた。しかしこのFクラスでは恭也以外に気の合いそうな友達は作れそうになかった。 ルイとも仲良くなりたいと思っていたが、ルイはいつの間にか男子生徒を従えて女王様のようなポジションに立っている。自分の身を守るための処世術なのだろう。 とても自分には真似できそうにない。 結空とあまり体格の変わらない恭也でははっきり言って頼りない気もするが、一人で行動するよりは心強い。 だが逆に巻き込んでしまって申し訳ない気もする。 「ありがとう恭也」 「いいって」 「結空、気を付けなよ。実はそういう恭也みたいな親切を押し売りした人畜無害を装ってる奴が一番危ないんだから」 隣で恭也とのやり取りを一部始終見ていたルイが唐突に口を開いた。 しかも恭也を侮辱するような台詞を平気で吐く。 今まで親切にしてくれた恭也になんてことを言うのだろう。 結空は思わずルイを睨みつけた。 ルイはその視線を目の当たりにして悪びれることもなく肩を竦めてみせた。 「あ、そうだ。僕が結空を守ってあげようか?僕がお願いすれば言う通りに動いてくれる友達も出来たし、みんなそこそこ強面だし役に立つと思うよ。そうだ。ねぇ、その代わり曽根崎ちょうだいよ」 「え?どうしてここで曽根崎の名前が出てくるんだよ。それに曽根崎は俺のものじゃないし」 「俺のものじゃない?じゃあ僕本気で曽根崎落としにいくよ?この間はどうしてか失敗しちゃったんだけど……。ねぇ、曽根崎はこの辺じゃ超有名な代議士一家の跡取り息子なんだってね。曽根崎の家は代々Ωの女性と結婚してαの子孫を残すのがしきたりになっていて、男のΩと結婚なんてことは論外らしいけど、αを残す為なら正妻以外とも寝るらしいよ。結婚したり表に出たりはできないけれど曽根崎の敷地内に囲ってもらうこともできるみたいだよ」 「それ本当?」 「多分本当だよ。探らせたんだ、あいつらに」 ルイが窓際へ視線を寄せて、そこで談笑していた金髪を頭とする5人組を指し示した。 ルイの取り巻き連中だ。彼らをばかにしているわけではないが、その話は本当なのか疑わしい。 曽根崎がどういう環境で暮らしてきたのかはわからない。けれどΩの女性を娶るというのは自分が男だからなのか自然に感じた。 とすれば結空は今婚姻関係を結ばない番候補として曽根崎に言い寄られていることになる。 愛人のような位置付けになるのだろうか。 結空の胸にポコポコと穴が開き隙間が広がっていくようだった。 それに家の敷地内にΩを囲うだなんて話は嘘であってほしいと思った。 もしそれが曽根崎の意思とは反することだとしても真実だとしたら異常だ。 「もしそれが本当だとして、ルイはいいの?そんな……囲ってもらうだなんて」 「今のままよりずっとマシでしょ。番にしてもらって安定した生活が送れれば僕はそれでいいんだもの」

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