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第110話

Ωとして過ごしてきた長い時間がルイをこんな風にしてしまったのだろうか。 ルイのように誰かに依存して生かしてもらいたいと願うのはΩならではの発想じゃないかと思ってしまう。 少なくとも結空はΩ転化する前までは、将来に夢や希望や憧れを抱いていた筈だった。 それがΩに転化した途端、身体の不調から始まり様々なことが急降下していった。 具体的に将来のことは考えていなかったが高校卒業後は憧れのキャンパスライフが待っていて、彼女を作り青春を謳歌する予定であったのだ。 身体が変わってしまったせいで恋愛どうこう以前に性の対象は同性のαに移り、彼女を作ることも不可能になってしまった。発情抑制剤は高価なもので結空は塾通いをやめて冬休みに初めてアルバイトをし、稼いだ金で強い効果の薬を買った。 そんなことをしているうちに進学することさえ躊躇われ、進級したクラスはこのFクラスだ。 それでもやっぱり頑張りたい、みんなと並びたいと欲が出て、透に甘えてしまったけれど本来やりたかったことへ向かう気持ちを取り戻せたように思う。 ……ルイには多分、透のように甘えられるそんな友達がここにはいない。 「ルイはやりたいこととかないの?その……勉強とか、恋愛とか。第一ルイは曽根崎に恋してるわけじゃないよね」 「勉強なんか中学の途中からもうついていけなくなったし、恋愛なんて一方的に性欲ぶつけられるだけで、もう懲り懲り。だったら始めから利害が一致した割り切った付き合いが出来る相手と付き合いたい。もうこの際お付き合いなんてそんな遊びじゃなくて僕をまるごと所有してほしい。となると、やっぱり大物がいいんだ」 「ルイ……」 「結空は本当のところどうなの?月岡も曽根崎も結空狙いなんでしょ?見ればわかるよそれくらい。見た目は地味で平凡な一般男子って感じなのに、Ωのフェロモンが濃いんだねきっと」 ルイはルイで本気なのだと窺えた。 結空はあれから曽根崎と会っていない。向こうから結空に会いにくることもなかった。 これだけ離れていると、もう自分はいいのかな?と思ってしまう。 透と曽根崎を天瓶にかけ、ずるずると引き摺っているうちに呆れられ愛想をつかされお払い箱にされてしまったとしてもおかしくない。 なんにせよ、曽根崎と自分とでは住む世界が違い過ぎる。 諦めたほうがいいんじゃないだろうか。 近くにいればどうしたって曽根崎のαに惹かれてしまうのだから、こうして離れる時間を増やし、自然消滅に持ち込むのもお互いのためかもしれない。 でも……。 でももう一度、曽根崎と話したい……。

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