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熱と痛み

中間テストが終わり本格的な雨期に入った。 結空は一旦気持を固めたものの、まだ曽根崎に首輪を返せないでいた。 まず会わなくてはいけないし、鍵を外してもらわなくてはいけない。 二人きりで会ってしまったら、間違いなく曽根崎が欲しくなる。 となると、誰かに立ち会ってもらわなくてはいけないのだが、立会人がいようがいまいが尻は勝手に濡れてしまい、そんな失態を他人に見られるのは嫌だった。 ならば透に頼むしかないのだが、透はきっと自分が話をつけると言って結空のいないところで事を進めそうな気がした。 最後なんだから曽根崎ともう一度ちゃんと話がしてみたい、というのが結空の本音だった。 (会って何を話したいんだ?考えれば考えるほど、俺って優柔不断だな……) 曽根崎を想う気持を消すことは不可能で、やめなくては思っているのに潜在的な部分が邪魔をして、未だ行動に移せないでいるのだ。 (どうしよう……) ぼうっと机に肘をついて頬杖をつきながら窓の外を眺めていると教壇に立つ担任教師が言った。 「今日から教育実習の先生に二週間研修がてら、このクラスを受け持ってもらう。片貝先生だ」 α特有の匂いを感じて結空がパッと教壇へ目を走らせた。 そこには、均整の取れた長身の若い男が立っていた。程よく日に焼けた肌と爽やかな見た目、笑った時の大きな口が印象的だ。 女子受けする顔立ちで、早速きゃっきゃと黄色い声が上がる。 「片貝先生はこの学校出身でみんなの先輩にあたる。特進クラスを出ているから大体の質問には答えられる筈だ。授業でわからないところがあったら聞くといいぞ」 「ちょっと先生、最初からハードル上げないでくださいよ」 片貝は人の良さそうな笑顔を浮かべている。 「じゃ、片貝先生、自己紹介してください」 「はい。えー、|片貝芳樹《カタガイヨシキ》です。近くのK大教育学部三年になる現役大学生です。ですがこちらではみなさんの先生として勉強させてもらいます。趣味はテニスとアウトドア全般です。キャンプや釣りが大好きです。よろしくお願いします」 テニスやアウトドアが好きと片貝が言ったところで日に焼けた健康的な肌に納得がいった。 それにしてもこの学校は数えてみれば数人なのだろうが、この片貝もここの卒業生だというし、本当にαが多い。 βだった結空は誰がαで誰がβかなんて気にしたことはなかったが、Ωになってからはαに警戒するようになった。 教師だって例外ではない。 「胡散臭い笑顔」 隣のルイがぼそっと呟いた。 言われてみれば片貝は白い歯を輝かせ、どことなく作った笑顔を振り撒いているようにも見える。 ルイから片貝へ視線を戻した瞬間、片貝と視線がぶつかった。 片貝はまっすぐに結空を見ていた。 (こっち見てる……?なんで) 結空が気まずさを感じて視線を泳がせると、片貝はにっこり微笑み、またクラス全体へ視線を戻した。

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