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第113話
ルイならきっと、こんなことで泣いたりしない。
あの強さと美しさは本物だ。
どうして自分だけがこんなにうまくいかないのだろう。
同じΩであるルイに嫉妬している自分にまた嫌気がさす。
結空は走り続けいつの間にか生徒会室の前へ立っていた。
Ωに転化したての結空のはじめてを曽根崎に奪われた場所である。
こんな場所、忌々しい思いでしかないというのに何故きてしまったのか。
何故と思いながらも、その理由をわかっている癖に未だ素直に認めることもできない。
この扉の向こうに曽根崎がいることを想像しドアノブに手をかけた。
開いてるわけないだろうと思いながらその手を回すと、くるっとドアノブはスムーズに動いた。
鍵が開いていたのだ。
(……開いてる)
恐る恐るドアを開け中を覗き込むと、花のような香りが鼻の奥へと流れ込んでくる。
「あ……」
この匂い。
(曽根崎がいる……)
見なくても誰がいるのかわかってしまった。
自分の望んだとおり、曽根崎がいるのだ。
途端に胸がとくとくと高鳴るのがわかって思わずワイシャツの胸元をぐっと握る。
もうやめようと思っていたのに曽根崎の匂いが結空の理性を打ち砕こうとしていた。
会いたい。
今会ってどうする?もうやめようって決めたんじゃないのか。
触れられたい。抱きしめてほしい……!
傷付いた心を癒されたくて頭と体がバラバラに葛藤を始め、結空はドアノブを握ったまま立ち止まった。
「矢萩か?」
すると入口から仄かに漂う結空のフェロモンに曽根崎も気付いたらしく、顔は見えないが奥の部屋から曽根崎の声が聞こえてきた。
「あ……」
結空は曽根崎に会うための理由を咄嗟に口にした。
「えっと、その……く、首輪の鍵、外してほしい」
「あ?何だ?そっち行くから待ってろ」
結空の声がよく聞こえなかったのか、曽根崎がこちらへ向かってくる様子が窺えた。
(首輪を外したら本当にさよならだ)
結空は体を半分廊下へ出したまま、曽根崎を待った。
「おい」
奥の部屋から出てきた曽根崎は、相変わらず傲岸不遜な雰囲気で、しかし結空を見詰める眼差しは柔らかく、ちっとも怖いと思えなかった。
「首輪外しにここに来たって?」
「ん……」
首輪のことはここで偶々曽根崎と出会えてしまったから咄嗟に言ってしまったけれど、その時の思いつきではなく、少し前から決めていたことだ。
「なーんか……首輪外して俺のもんになりに来たって顔でもねぇし」
曽根崎の手が泣き腫らした結空の頬へ添えられて、その親指で赤くなってしまった目元を拭う。
「何があった?」
「……」
何からどう話すべきか結空は言葉を詰まらせた。
曽根崎はなかなか口を開かない結空に溜め息を吐き取り敢えず部屋の中に入れようと思ったのだろう、結空の腕を引こうとした。
その時、結空の背後から別の声がして曽根崎が動きを止めた。
「矢萩君!教室戻ろう」
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