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第114話

「え……?」 聞き覚えのある声だった。 結空が振り向くと、そこには教育実習できたばかりの片貝が立っていた。 担任の指示で連れ戻しに来たのだろうか。どうやら結空を追いかけてきたらしい。 片貝は爽やかなイメージをそのままに、結空に笑いかけ手を差し伸べる。 「そんなところでサボろうだなんて、大人しそうな顔していい度胸してるなぁ」 「……」 まさか追いかけてくるなんて思わなかった。 「おい、誰だ?」 固まってしまった結空を見て曽根崎がドアを大きく開けた。 片貝が曽根崎を見て「もう一人いたのか」と驚いた顔をしたが、すぐにまたにこりと笑みを浮かべる。 教育実習生ではあるが結空や曽根崎より自分は立場が上だと主張したいのか、それとも余裕の表れなのか、はたまたそう見せたい強がりなのか、結空には片貝の微笑みが理解できない。 「あれ?君もサボり?ダメだよサボっちゃ。このことは内緒にしといてあげるから、君も早く教室戻りなさい」 「……誰だてめぇ」 「今日から矢萩君のクラス担当になった教育実習生だけど、先生って立場だから教育的指導はさせてもらうよ」 はきはきと喋る片貝を見て曽根崎があからさまに不機嫌な表情で片貝を睨みつける。 片貝はやはり自分に自信があるのだろう。 見るからに柄の悪い曽根崎を見ても、一向に引く気配がない。 結空は対峙する二人を見て、ここで曽根崎が片貝と揉めてしまったら、その原因は自分にある。そうなったら面倒だし、それに自分が教室から逃げ出したことに曽根崎を巻き込みたくない。 片貝に見つかってしまった以上長居は無用だ。大人しく教室に戻る他ないだろう。 「ごめん曽根崎、またあとで話す。俺教室から抜けてきたんだ。見つかっちゃったし、またな」 くるりと踵を返そうとする結空の肩を曽根崎がくっと掴んで囁く。 「おい、大丈夫なのか」 「うん」 曽根崎に心配かけるのも嫌で、結空は大人しく片貝の側へ移動した。 「君も早く教室戻るんだよ。さぁ矢萩君、行こう」 無言の結空の背に、片貝が手を添える。 片貝の手から生温い体温が背中に伝わってくる。 それがやけに不快に感じた。 「……教室抜け出したくなる気持もわかるよ。あれはないよな」 「え……」 「普段からいじめられてりしてるのか?」 「いえ、別に」 片貝は自己紹介の時のことを言っているのだとわかった。 クラスメイトが指笛で教室内におかしな空気を作り、担任の「Ωだから人気がある」という発言。 居ても立ってもいられなくなり教室を飛び出したのは事実だ。 「もし戻るのが嫌だったら保健室で休むって手もあるけど」 「いえ、いいです。戻ります」 「そっか」 結空は自分より背の高い大きな片貝の隣に並んで歩く。 今更教室へ戻るのも嫌だったが、逃げずに頑張ると決めたのは自分じゃないかと結空は気持を奮い立たせる。 緊張した面持ちの結空を見て、教室の手前で片貝が足を止めた。 「そういやあの生徒会室、今も使用用途変わってないみたいだな」 「え?」

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