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第115話

「ん?知らない?そういうつもりで行ったんじゃないのか」 「何のことですか?」 「あぁ、知らないんだったらいいんだ。あの生徒会室、表面上は生徒会室だけど俺が現役だった時は恋人同士が落ち合う為の部屋っていうか、まぁ早い話、ヤリ部屋みたいな使われ方もされててさ」 「……」 片貝の言葉に初めて曽根崎に貫かれたことを思い出した。 確かにあの生徒会室でめちゃくちゃに抱かれ気を失った。気持良すぎて失神してしまったのだ。 「さっき生徒会室にいたのは矢萩君の恋人なんじゃないの?あそこで落ち合う約束してた?」 「そんなんじゃないです。前にたまたま鍵が開いててそこでさぼったことがあったから、今回も開いてるかなって思って。そしたら先客がいただけで」 嘘だ。曽根崎がそこにいるかもしれない、いや、いて欲しいと、心の奥底で願っていた。 そしてそこに曽根崎がいたのは偶然だ。けれど曽根崎が過去にそこで結空を抱いたのも事実。 そこまで考えて胸の奥が苦しくなった。 もしかすると曽根崎は、片貝の言う用途で生徒会室を使用しているのかもしれない。 自分だけじゃない誰かを抱いていたって、ちっともおかしくないのだ。 「そう。あいつは鍵持ってるのか……。今も鍵穴は変わってないのかなぁ」 「……?」 結空は片貝の言った言葉の真偽を確かめたくて片貝の表情を窺っていたが、片貝は何か独り言をぶつぶつと呟いている。 数年前と違う今、片貝なりにどこかノスタルジックな気持にでもなったのだろうか。 すぐに片貝が結空の視線に気付き、不自然に目を泳がせた。 「あ、いや、生徒会室がヤリ部屋だったことなんてもう数年前の話だし、矢萩君がそういうことしに生徒会室行ったんじゃないんだったら失礼なこと言って悪かったなぁと思って。ごめんな。男同士だとヤリ部屋だとか、こういう軽口叩いてもいいかなぁと思っちまうんだよなぁ。矢萩君はそういうタイプじゃないだろう?」 「下ネタが苦手なわけじゃないし、気にしないでください」 「そう?」 「はい」 丸く穏便に事を収めるには、ここはこう返事するしかないだろう。 片貝はにっこり結空に微笑むと教室の扉を開けた。 「さ、戻ろう。何かあったら俺に言って」 片貝が結空の方へ踏み込んでくる。それに少しの嫌悪を感じて結空はそれに対し軽く頭を下げることしか出来なかった。 その日の放課後、結空は教室の掃除当番で教室内を箒で掃いていた。他にも当番の生徒はいたのだが、皆用事があるとかで結空に半分押し付けるようにして帰ってしまった。 一部始終を見ていた恭也も、今日はどうしても外せない用事があって手伝えないということだった。 手伝えなくてごめんと言われたが、元々恭也は当番じゃないのだから謝る必要もなく、逆にこっちが気を遣わせてごめんと謝る羽目になった。 教室全体を掃いたらモップをかけて机と椅子を元に戻すだけなのだが、結空一人では結構な重労働だ。 「いやがらせなのか?それともいじめか?くそっ」 たった一人で教室の掃除をさせられて思わず恨み節が出た。 ガタガタと机や椅子に八つ当たりしながらモップをかける。 すると廊下側の窓から一人の生徒が顔を覗かせた。嫌でも赤い髪色が目につく。 それは結空の自己紹介を指笛で邪魔した柏だった。 「手伝おうか」

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