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第118話

下校時刻、透と曽根崎が結空の教室までやってきた。廊下側の窓から教室内を見回している。 「曽根崎!どうしたの?こんなところまで!」 彼らにいち早く気付き、真っ先に駆けつけたのはルイだった。 ルイの目当ては曽根崎だ。透のことは眼中にないらしい。 きゃっきゃとはしゃぐルイに曽根崎は何か話をしている。 何を話しているのか聞こえないのだが、ルイが嬉しそうにしているのと、曽根崎のルイへの対応が自分より優しく見えるのが何だか癪に障る。 「やっぱり全然違うね。さすが特進って感じ。αってカッコいいなぁ」 恭也が結空にこそっと言った。 確かに見栄えは良くて目立つしカッコいい。女子生徒は遠巻きに黄色い声を上げて透と曽根崎に熱い視線を送っている。 それにしてもSクラスはまだ7時限目の授業が残っているだろうにわざわざFクラスに来るなんてどんな用事だろうかと思ったが、二人纏めてくるなんて心当たりは結空自身に他ならない。 「まぁ確かにカッコいいね。じゃ恭也、お先。また明日」 結空は恭也に手を振って目立たないよう鞄を抱えて教室を出た。 「結空!」 「何?」 やっぱり結空に用があったのだ。透が結空を呼び止めた。 「曽根崎から聞いたんだ。結空の様子がちょっと変だったって」 「あ……うん」 「何か曽根崎に伝えたいことがあったの?」 「うん」 首輪を外して欲しいと思ったのだ。曽根崎を諦めるつもりだった。だから、曽根崎本人に納得してもらって首輪を外したかった。 「それって俺が聞いちゃダメなこと?」 「ううん、そんなことないよ。透にも関係あることだし一緒でも全然かまわない」 「じゃあ生徒会室で俺達の授業終わるまで待ってて。授業終わったら曽根崎と向かうから。これ生徒会室の鍵。曽根崎から預かったんだ。今日は生徒会の活動予定はないそうだから結空の他に誰も入ってくることもないし、ソファーで昼寝しててもいいよ」 「ん……わかった。じゃあ昼寝して待ってようかな」 何にせよいずれは話さなくちゃいけないことだし、結空と曽根崎、それから透、この3人が顔を突き合わせて解決しないといけないことだ。 (ちゃんとしなくちゃ……) 結空は透から鍵を受け取り、決着をつける覚悟を決めた。 透が結空をじっと見詰める。不安げに瞳が揺れているように見えた。 それを見て、その不安を和らげるように結空が微笑んだ。 「なんて顔してんだよ透。なんか捨てられた犬みたいな顔してる」 「だって……」 運命の番を探しているのは皆一緒だ。だからこんなにも必死になり不安になる。 曽根崎に目をやるとルイに捕まったまま、まだ話をしていた。 曽根崎は気まぐれで、優しかったり乱暴だったり、散々振り回されたけれど人を振り回す魅力を兼ね備えているのだから仕方ない。曽根崎に惹かれる身体がどこか懐かしくも思える。 諦めることを決心した結空の目に映る曽根崎とルイは、傍から見れば、お似合いの恋人同士のようだ。 ルイが嬉しそうに微笑む姿は、普段よりも一段と可憐で可愛らしく見える。 (俺よりルイの方が釣り合ってる……) 結空の目には未練の色が残っていた。 透はそんな結空を見詰めながら、ふと、スンと鼻を鳴らした。

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