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第123話
(変態の上に泥棒かよ……。こいつ許せない……)
結空は恐怖で身体を震わせると同時に湧き上がる怒りも止められず、どうにかして片貝を警察に突き出してやると余裕のない頭を回転させる。
「あんなところで、君の乱れた姿を見せられて頭にきたんだ。本当にいい匂いだった。なのに君はあんな不良に夢中でこっちに気付きやしない。だからお仕置きしてやったんだ。君の鞄からもいい匂いがしたから、君のだってすぐわかった。あぁでもやり過ぎたのかもしれない。財布からお金まで奪ってしまった。でも抑制剤はそのまま鞄に残しておいてあげたんだ。でもやっぱり頭にきて君がいなくなってからその鞄を川に捨てた。薬がなくて困らなかったかい?でも君が悪いんだよ。……この生徒手帳は俺と君を繋ぐ大事なものなんだ」
(ひどい。財布の中身まで盗んだのかこいつ……。お前のせいで透と曽根崎が身体を濡らしてまで鞄を探してくれたんだぞ)
怒りで震えそうになる手をぐっと抑え込む。
曽根崎達が来る時間まであと少し。もうすぐ会えると思うだけで、恐怖がだんだん薄れていく。
「先生……、どうして俺なんかを……?それに俺、この部屋に鍵かけたんですけど、どうやって入ってきたんですか?」
結空はもうすぐ7時限目が終わって曽根崎と透がここへ来ることを見越し、少しでも時間を稼ごうと話しを引き伸ばすことにした。
下半身をガチガチにしながらも結空を襲ってこないところを見ると、強姦したいわけではないらしい。
しかし異常な性嗜好を備えていることには違いない。
「どうしてって。そりゃあ、驚く程、君がいい匂いだからさ。Ωは俺が在校生だった時に一人だけいたんだけど、とても下品な匂いだったんだ。ただ犯したいだけって感じの。でも矢萩君は違う。なんかこう……、優しくいじめてあげたいような、可愛がってあげたいような、そんな匂いがするんだ。でもちゃんと、いやらしい匂いも兼ね備えてて本当に理想の匂いだ。見た目も大人しそうで小柄なところが堪らない。そうそう、それからこの部屋の鍵は俺も持ってるんだ。αの間でこの部屋をいつでも使えるようにってスペアキーを持つのが流行っててね。もちろん俺は使ったことないんだけど、鍵だけはずっと持ってて……だからここに入れたし、こうして君に愛を囁くこともできたんだ」
聞けば聞く程反吐が出そうなくらい片貝の話しは一方的で気持悪かった。
「さっきはお尻を沢山叩いてごめんね。痛かっただろう。腫れてないか?舐めてあげたい」
「あ、えっと……、ちょっと痛いけど、大丈夫です。でも俺、先生が無理やり……そのレイプみたいなことする人じゃなくて良かったって思ってます」
舐められるなんてたまったもんじゃない。こうなってしまったら大丈夫だと言うほかないだろう。
結空が涙目で片貝を見上げ微笑むと片貝は顔の表情を緩め、頬を赤く染める。
片貝は本気で結空のことが好きなのだ。異常な愛情。それに気付くことなく結空を一方的に想い続けてきた結果がこれだ。
「先生、俺ここで待ち合わせしてるんです。もう授業終わるしここに来ると思います。でも先生ともう少しこうしていたい」
「矢萩君……。じゃあ、鍵は君が持っていることだし、どうせここに彼らは入れないんだから、もう少しだけここにいようか、二人で」
片貝がそう言って結空の手を取った瞬間、終業のチャイムが鳴った。
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