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第130話

透と曽根崎が結空を見詰める。 結空を何を話す為にここへ自分達を呼んだのか、大方見当がついているのだろう。 二人の表情が神妙な面持ちへと変わっていく。 「首輪の鍵、外して欲しいんだ」 「……結空」 「本気なのか?」 「うん。このまま二人に気を持たせておくのも申し訳ないし……」 「気持ちが固まったってことなの?」 「うん、まぁそういうことになるのかな」 「なら、首輪を外したら、お前が誰を選ぶのか知らねぇが、俺達の目の前で噛まれてる姿を見せろよ」 「え……」 「お前、危なっかしいんだよ。このままだと本気でレイプされるぞ。ちゃんとマーキングされとけよ。頼むから」 「曽根崎……」 曽根崎が結空を思う気持ちは特別で本物だと知らされると同時に、結空の胸が痛む。 首輪を外しただけでは諦めきれないのだろう。 そこまで考えていなかった結空は戸惑った。 結空はどうしたらいいのか無意識に透に視線を向ける。 「俺もその方がいいと思う。前にさ、結空、番になるのは怖いって言ってたよね」 言った記憶はある。クリスマスのあの日、透に抱かれたときだ。 気持ちがあやふやで、でも透に抱かれたくて透の部屋へ押しかけた。 その時項を透の舌が這い、結空は噛まれることを拒絶した。 自分が、透が、世界が変わってしまうのではないかと恐怖に怯えたからだった。 「うん」 「全然怖くなんかないよ。ちゃんと学校だって通えるし、今まで通り勉強だってできる。それに、番にしか感じない体になってΩのフェロモンも番に強く作用するようになる。だから今までのように、やたらと襲われたりすることも減ると思う」 確かに透の言うことも一理ある。 逆にこのままの体で過ごすとなると、発情期に振り回され、今回のようなことがまた起きたとしてもおかしくない。 二人は真剣な眼差しで結空を見詰める。 今ここで、番になることを二人が望んでいる。 どうするかなんて、とっくに答えは出ていた筈だ。 それがこんなに名残惜しく、未練を残すとは思わなかった。 それでも心を決めなくてはいけない。 結空が少し間を開けて、口を開いた。 「首輪を外して欲しい」 すぐに透が首輪の鍵を開け、結空の首に重くぶら下がる首輪を外した。 首輪の重みから解放されると同時に結空の目に涙が溢れる。 透が好き。 でも、曽根崎も好きだ。 「ごめん、ごめんね、……曽根崎。……透、噛んでいいよ」 「わかった。結空、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」 結空がこくりと頷くと同時に涙がぽたぽたと零れ落ちる。 これで本当に曽根崎とは縁が切れる。 結空の処女を奪い、強引に愛を囁く不器用な男だった。しかしΩの結空からすれば、喉から手が出るほど欲しいαの男。不器用な愛情表現も、今となっては可愛らしく感じられる。 結空は少し首を傾げ透が噛みやすいように頭を固定した。 これから透に噛まれるのだというのに何とも言えない悲しげな表情の曽根崎から目が離せない。 (俺、ちゃんと言ったことあったかな……) 項を透がぴちゃぴちゃと音を立てながら濡らしていく。 噛まれれば結空は完全に透のものとなるのだ。 報われなかった曽根崎の思いはどこへ昇華していくのだろうか。それを思うと切なくなる。 後ろで透が大きく口を開けた。 好き、と結空は曽根崎を見詰めながら唇だけ動かす。 声には出さなかったが、結空の最初で最後の告白。 フェロモンに惹かれていただけじゃなく、いつの間にか好きになっていたのだから仕方ない。 結空の唇を見て曽根崎が目を見張り、直後ものすごい勢いで立ち上がった。 「ふざけんな……ざけんなーーーっ!」 「え……曽根崎っ!?いっ……っ!」 曽根崎の体で視界が覆われて、何が起きたのかわからないうちに項に熱が走る。 鋭い痛みで噛まれたのだとわかった。 これでいいんだ。これでよかったんだ。 これは幸せな痛みなのだと自分自身に言い聞かせ、暗くなる視界の中に結空は意識を手放した。

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