131 / 145

gift

辺りは仄暗く、結空の体は四肢それぞれ外側に引っ張られ、ちぎれてしまいそうな痛みに襲われていた。 凶暴な熱同士がぶつかり合い火花を散らす。 いくら抵抗しようとしても、その戦いの渦の中へ、結空の体は引き込まれ2つの熱に挟まれる。 熱さを伴う痛みが全身を駆け巡る。 何度も何度も凶暴な2つの熱は結空を間に挟んでぶつかり合う。 いつまでこうして耐えればいいのか、繰り返す痛みに気が遠くなりそうだった。 やがて2つの熱は柔らかな真綿のように形を変えて、結空を優しく包み込む。 反発しあっていた筈なのに、いつの間にか同化し、結空を包む暖かな陽だまりとなった。 瞼の裏に白い光が差し込んで、結空はそっと目を開けた。 白い天井に、結空を覗き込む父や母、妹のあいり。それから、透と曽根崎。 白いカーテンに囲まれたベッドの上で結空は仰向けで寝ており、ここが病院だとわかる。 「結空!」 「大丈夫!兄貴!?」 「俺達、先生呼んできます」 聞き慣れない曽根崎の敬語使いで一気に意識が急浮上し、透と曽根崎がどたどたと慌てて部屋を出て行った。 「……ここ、病院?俺、倒れたの?」 「そうよ、結空。あなた高熱で倒れて2日も眠っていたのよ。それにしても……あぁ結空が無事でよかった」 涙を拭く母の隣で父がうんうんと頷く。 あいりまで、ぐすっと鼻を鳴らして目尻を指で拭っていた。 自分の体が危ない状況に陥り、病院へ運ばれたのだということは理解できた。 あの時、透に噛まれた時に、そのまま気を失ってしまったのか。 しかし何故……。気を失うほどの衝撃でもあったのだろうか。 ……思い出せない。 結空が項へ手をやると、首には包帯が巻かれていて、傷を確認することはできなかった。 (何が起きたんだろう) 結空の無事を喜ぶ両親と妹の横で、結空は冷静だった。 体が怠い。熱があるのかもしれない。でも痛いところはないし、ケガをしているというわけでもなさそうだった。 その後間もなく慌ただしい足音と共に白衣を着た担当医が病室へ入り、後から続いて透と曽根崎も戻ってきた。 それを見て結空は力の入らない腕で、よろめきながら体を起こした。 「あぁっ結空、無理しないで!」 透が急いで結空に腕を差し出して体を支える。 「透……大丈夫だよ。サンキューな」 「うん。俺支えてるからね」 ベッドサイドに腰かけた透に肩を抱かれた状態で担当医に向き合った。 「結空くん初めまして、担当医の佐久間です。君は2日前の夕方、意識不明ということでここへ搬送されました。その時点で40度の高熱があり、ここにいる彼らから事情を聞き、体を検査させてもらったんだけど……。君、この二人から番の儀を受けたね?」 「え……?」 「この包帯外しますね」 担当医が結空の包帯を外し、結空の手をとって項へと誘導する。自分では見えない場所だからか触れて確認させようとしているのがわかる。 「こっちに一か所」 誘導された先にはガーゼが貼ってあり、傷があるのかどうかわからなかったが、手で押さえると確かに痛みがあった。 「こっちにも一か所」 右寄りの項から今度は左へ手を移動させられる。 そこにもまたガーゼが貼ってある。 「……え、これなに?」 結空は手を左右にずらし確認する。何度確認しても、ガーゼは2か所に貼ってあった。 「このガーゼの下には、ここにいる彼らに噛まれた傷が残ってるんです。どういう理由でこんなことになったのかはわかりませんが、恐らく結空くんの体はαの唾液に含まれる番となるための物質を2人分同時接種してしまったため過剰に免疫細胞が働いたのでしょう」

ともだちにシェアしよう!