132 / 145
第132話
「2人分……?」
「非常に稀なケースですが、同時に複数の人間に噛まれたΩの症例はいくつか報告されています。報告された事例によると拒絶反応などを起こしてそのまま亡くなってしまうことが多いので、結空君は運がよかったということに他なりません。熱も少し下がったようですし、このままもう少し様子を見て、問題なければ退院ということでよろしいかと思います。後は、皆さんでよく話し合って、今後のことを決めてください」
担当医の話が終わり、結空の両親が会釈した。
その後看護師が結空の点滴をチェックした後部屋から出ていき、部屋に重苦しい空気が流れる。
結空はあの時、透だけでなく、立ち上がった曽根崎にも同時に項を噛まれ気を失ったのだ。
その事実が現実なのだと、項にある2つの噛み傷が教えてくれる。
透と番になることは、結空にとって一番いい選択だったことは間違いない。
現実を見ずに好きという気持ちだけで番になれるのなら、曽根崎が相手でも構わないとも思えた。
それを同時に手に入れることが出来たということなのだろうか。
自分の体がどういう風に変わったのか知るのが怖い。
「結空、大丈夫だよ。俺も曽根崎もちゃんとこれからどうしたらいいか、考えてきたから」
「透……」
透と目を合わせた曽根崎が苦虫を噛み潰したような顔で、床に膝を付き、結空の両親に向き合った。
「すみませんでした……!まさかこんなことになるとは思わなくて……。結空を命の危険に晒してしまって……」
あの曽根崎が床に膝を付き、頭を下げている。
初めて見る光景に結空は目を丸くした。
(それに……俺のこと、結空って……呼んだ……)
名前で呼ばれただけで、胸の奥がきゅっと甘く疼く。
結空の肩を抱いていた透も立ち上がり、曽根崎の隣に膝をついて正座する。
「おじさん、おばさん、本当にすみませんでした!俺達、結空のことが好きで、大好きで……。でも子供同士で勝手に番の儀なんて決めちゃいけなかった。気持ちばかりが焦って、色々順番間違えました。結空を危ない目にあわせてしまって……本当にごめんなさい」
ばっと勢いよく透が頭を下げる。結空の両親も目の前で土下座されるなんて思ってもみなかったのだろう。
父が慌てて口を開いた。
「土下座なんていいから、ほら、頭あげて二人とも。その……なんていうか、私も妻も結空が転化するまでΩに面識がなかったもんだから、体調の変化にもどうやって気を付けてあげればいいかわからなかったし、それに私たちはαでもないからαの気持ちや性衝動についても実はあまり精通してなくてね。きっと君たちもそうなんだろうと思っていたんだけど、違うかな?だから今回のことは事故的なものなんだろうと……」
「違います!!」
曽根崎が声を上げた。
「違います。俺達にとって結空は特別なんです。一時の性衝動で噛みついたわけじゃない。俺達は結空が好きで結空も俺達のαに惹かれてる。だから……この先も一緒に居たいと思ってます」
「曽根崎……」
嘘みたいだと思った。
曽根崎がそんなことを結空の両親に告げるなんて。
「結空のこと、俺達一生大事にします!俺も曽根崎も全力で結空を幸せにしたいと思ってます!だから、おじさん、おばさん、お願いします!俺達が番でいること、認めてください……!」
透も声を震わせて必死に許しを乞う。結空の為に床に額を擦り付けて。
体が自由に動かせるのなら、透を抱き締めてこのプレッシャーから守ってあげたいと思った。
このままでは学校一の王子の名が泣いてしまいそうだ。
「あなた達がよくても、あなた達のご両親は納得するの?」
結空の母が切り込んだ。曽根崎が政治家の息子だと知っての疑問だった。
そもそも結空だってそれがネックで曽根崎を諦めようとしていたのだ。しかし強引に、曽根崎らしいやり方で番にされてしまったのだから、結空としては諦める他ない。
「そんなん。俺らが力づくで噛みついたんだ。責任取るのが筋ってもんだろ。結空のことは死ぬ気で守るつもりだ」
「曽根崎、言葉っ……」
「……です」
ともだちにシェアしよう!