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第134話

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 「おはよう結空!体はもういいの?」 一週間ぶりに登校した結空のもとへ恭也が駆け寄ってきた。 片貝の一件から透と曽根崎の番となり、熱を出して入院した一週間。 この身に起きた出来事は信じ難いことだった。 もちろん大きな喜びもあったけれど、同時に手放しには喜べないくらいの不安もあった。 久しぶりの登校ということもあり緊張で体を固くしていた結空だったが、久し振りに見る恭也の顔は、優しげで頬に浮かぶそばかすには愛嬌があり、見ているだけで毒気が抜かれ一気に緊張が解れるようだった。 「恭也!うん。もう熱下がったし大丈夫。心配してくれたんだ?」 「そりゃまぁ高熱で1週間も休んでるって聞けば何の病気かなって気にもなるよ」 「確かに……。そっか、俺1週間も休んだんだ」 口に出してみると、その事実が急に現実味を帯びてきて、明確に取り残されたとわかる一週間分をどうやって挽回しようか考える。 「恭也、後でノート貸してくれない?」 「もちろんいいよ。あんまり無理するなよ」 「うん。ありがとう」 結空と恭也が話しているとルイもやってきて、久しぶりに顔を見合わせるや否やルイがきっと結空を睨みつけた。 「あ……おはよう、ルイ」 ルイの視線が結空の首元からちらりとのぞく白い包帯に突き刺さり、ルイは唇をぎゅっと噛んだ。 「意外。結空って奥手だと思ってたのに」 「あ……」 何のことを言っているのかすぐにわかった。番となったことを悟られたのだ。 曽根崎を諦めようと思っていた結空は、ルイの恋を応援すると言った。 言ったそばから、あの事故的な番の儀があり、結空は意に反して曽根崎とも番となってしまった。 Ωとして優秀であると信じて疑わない美しいルイとしては、結空に先を越されたことが心外なんだろう。 「あーあ、信じられない。僕より結空の方が先に相手見つけるなんて。で、あいつと番になったんでしょ?月岡だっけ?幼馴染の」 (透だけじゃなく曽根崎とも……。ルイにはちゃんと説明しないとダメだ) 「そのことでちょっと話があるんだけど、お昼一緒に食べれる?」 「何?ここじゃ言いにくい話?」 「うん。まぁ……そう」 「えー。今日は篠原が僕の好きな店のサンドイッチ買ってきてくれる約束なんだけど」 篠原とはルイの取り巻きの一人でありその中でもリーダー格のクラスメイトだ。 色素を抜いた金色の髪で外見は派手だし身長も平均以上あり、肩幅もしっかりしているので結空が篠原に抱くイメージはガラの悪い不良だった。 しかしルイとは友好な関係を築いているらしく、ルイのヒートが薬で散らせない時には発散する相手でもあるし、美しいΩのルイを守ってくれてもいるらしい。 その篠原とルイは昼休みを一緒に過ごす約束をしていたのだ。 「そっか。じゃあ篠原も一緒でいいよ。俺、───ルイに謝らなくちゃいけないんだ」 「……何、謝るって。どういうこと」 途端、ルイの表情が冷たく変化したように思えた。 美形って笑っても怒っても絵になるんだな……なんて、結空は頭の片隅で思いながら何て謝罪したらいいのか考える。 「ごめん、後でちゃんと話すね。お昼は屋上で待ち合わせしよう」 「……」 ルイの返事を聞く前に始業のチャイムが鳴った。

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