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第135話

昼休みの屋上。 ルイが篠原に人払いをさせ、屋上には結空とルイだけが居た。 「用があるなら早くしてくれない?せっかくの休み時間、無駄にしたくないんだよね」 ルイらしい物言いは相変わらずだ。 結空は首に巻いていた包帯を外し項についた噛み跡をルイに見せた。 口で説明するより手っ取り早いし、何より現実にこれを見せることで諦めると思ったからだ。 するとルイの手が伸びてきて結空の短い後ろ髪を掻き分けて項を露わにした。 「何これ……。2箇所も噛まれてる。ちょっと盛り過ぎなんじゃないの?月岡。淡泊そうな見た目を裏切るね」 「……」 「結空、どうして黙ってるのさ」 ルイは始めこそ笑って結空の項を見ていたが、結空の様子がおかしいことに気づき、再び項に目を落とす。 「もしかしてこれ、2人に噛まれたの?」 「……ごめん」 「なんで謝るの?」 「それ、透と、……曽根崎の噛み跡なんだ」 「は……?」 「同時に2人に噛まれて、その副作用で俺入院することになってしばらく休んでた」 「……」 結空は顔を上げてルイに体を向けなおす。泣きそうに歪んだルイの表情とぶつかって、結空は慌てて頭を下げた。 「ごめん!ルイの恋を応援するなんて言っておきながら……」 もしかしたらルイは泣き崩れてしまうかもしれない。 見た目だけなら結空ですらどこか守ってあげたいと思わされるルイ。 そんな彼を悲しませてしまったら……と、焦燥感が込み上げる。 ルイは暫くの間言葉を失い、その場に立ち尽くすようにして佇んでいたが、キッとした表情で結空を睨みつけると腕を振り上げた。 引っ叩かれる……! 咄嗟にそう判断した結空が目をぎゅっと瞑り、来るべき衝撃の訪れを待った。 友人として恋を応援するふりをして、結局は自分が奪ってしまった罪悪感が、そうされてもおかしくない、むしろそうされるべきだと結空は自分に言い聞かせる。 「……?」 しかし待ち構えていた痛みと衝撃は訪れず、代わりに訪れたのは結空の頬を包むルイの体温だった。 「結空……、むかつくけど、おめでとう」 「ルイ……」 「2人から同時に噛まれた話なんて聞いたことないよ。入院するくらいだから死にかけたんでしょ?αって本当獣じみていて最低だよね。でも僕たちを幸せにしてくれるのもαなんだから、……どうしようもないよ」 「ルイ……、怒ってないの?俺、一発殴られるの覚悟してたんだけど……」 「本当は殴りたいくらいムカついてるんだけど、別に曽根崎のことが好きなわけじゃないし」 ルイの手がするりと頬を滑り落ちた。 「どういうこと」 好きじゃなくて、そんなに懸命に曽根崎みたいな乱暴な奴を追い掛けるなんてことが出来るのだろうか。 「わかんないの?結空なんかに落ちるような奴はこっちから願い下げだってことだよ。話はそれだけ?」 「……うん」 「じゃあ僕もう行くね。そこに篠原待たせてるし。あーぁ、つまんない話聞いちゃった」 ルイはくるりと踵を返す。 嘘だ。 ルイは曽根崎のαのフェロモンに、どきどきして惹かれていた筈だ。 曽根崎と話すときのルイの顔は結空ですら見惚れてしまうほど可憐で可愛らしかった。 それを思えばルイが強がって結空を祝福したのは明らかだ。 それほどまでにルイが手に入れたかった曽根崎を番としてしまった責任は大きい。 ルイが一瞬見せた泣きそうな表情はくっきりとまぶたの裏に焼き付いている。 この先一生忘れることはないだろう。

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