五線譜に音符が綴られていた。 「ノイさんの楽譜です。曲名は確か……」 「24の前奏曲(プレリュード) Op.28 15番目の曲」 『雨だれ』 ポーランドを愛したショパンの曲だ。 「恐らく……自分の命が残りわずかな事に、ノイさんは気づいていた。 あなたにピアノを聞かせたくて。 でも、聞かせられないのを分かっていたから。 手描きの楽譜を遺(のこ)したんです」 あなたに……… 私に……… 声を伝えるために 「お前は生きているんだな。この曲の中で」 音が降り注ぐ。 しんしんと 雨だれのように…… 音符を追う毎に、お前の声が聞こえるよ……