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第7話

*―――*―――*―――* 「眞秀さあああああああん!」 壊れそうな勢いで事務所のドアが開いた。そして見慣れたホストくんの姿。 甘い王子様的なイケメンなのに中身がヘタレ過ぎて、つい最近『残念王子』の異名が付けられたらしい。 入店してから一か月がたったようで、最近ジワジワと人気が出てきているようだ。 眞秀への伝達係なんて入りたての新人に任せればいいのに、何故か今日も来た。 「あの!てん、」 「ねぇ」 「は、はい!?」 言葉を遮って呼びかけた瞬間ビクッと固まったホスト君の反応に、俺は猛獣か…と思わず苦笑いを浮かべる。 「俺の方が後から入ったんだから、そんなに畏まらなくてもいいよ」 「いえ!気にしないでください!眞秀さんに馴れ馴れしくしたらきっと俺殺されますから!」 「…誰にだよ…」 いや、もういい。これ以上は何も聞くまい。 何か言おうとしたホスト君に片手をヒラヒラ振って、言葉を止めさせる。 「あのさ、この店ってプレイヤー数多いし入れ替わりも激しいから、名前ってほとんど覚えてないんだ」 「はい!俺もほとんど覚えてません!」 「……そうか…」 ホストのお前がドヤ顔で言うんじゃないよ。 つっこみたいが、やめておく。疲れそうだ。 「あー…っと、まぁ、だから、それなりに関わる人だけは名前を憶えておきたいと思ってるんだけど」 「はい!誰の名前をご所望でしょうか!」 「キミだよ」 「は!?なんで俺!?」 「いや、だから、こうやって関わってるから」 本当に残念王子だなこの子。ムンクの叫び状態になって固まっている。 椅子から立ち上がった眞秀は、青ざめている残念王子の前に立ち、自分とほぼ同じ位置にある瞳を覗き込んでその左肩に手を置いた。 「で?キミの名前は?」 某映画タイトルのような眞秀の問いかけに、青ざめていたホスト君の顔が今度は真っ赤に染まる。まるでリトマス試験紙。 「れれれれれ蓮司(れんじ)です!!」 いくらなんでも“れ”が多すぎる。 あまりの動揺っぷりに可哀想になって、宥めるように肩をポンポンと軽く叩いて手を離した。 「ヨロシクな、蓮司。…で、なに?」 「な、何って、何がですか?」 「いや、ここに来た用事」 「ああああああっ!忘れてた!…あの、店長が眞秀さんを呼んで来いって。ヘルプが足りないって」 「………」 「よ、よろしくお願いします!」 眞秀の眉間にシワが寄ったのを見た瞬間、蓮司は顔を引き攣らせて脱兎のごとく逃げていってしまった。 …レーイチ君どうしてやろうかな…。 本気でヘルプに入らせるつもりだったのかと殺意が湧くが、とりあえずやるしかない。 思いっきり深いため息を吐き出した眞秀は、ハンガーに掛けてあったジャケットを手に取ると、それに腕を通しながら事務室を出た。 「実さん、ヘルプが足りないとか蓮司の気のせいですよね」 バーカウンターに寄りかかって、今日も実直な空気を醸し出す実へ期待をこめて声をかける。 磨いていたグラスを見ていた真っ黒な瞳が眞秀を見とめたかと思いきや、 「琉人のテーブルお願いします」 淡々と悪魔のセリフを吐かれてしまった。 実の口角が僅かに吊り上がって見えたのは気のせいだと思いたい…。 琉人はナンバー争いに参戦してるというだけあって、日々精力的に客を楽しませている。 初日以来、顔を合わせれば挨拶はするものの、特別親しくもしていない。それでも、ヘルプにつくなら顔見知りの方がまだやりやすいから気分的には助かる。

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