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第16話
ふと思い出したのは昨夜の出来事。仕事終わりで疲れていたところに精神力を削られて、とてつもなく眠かった。そこから先の記憶がない。そして今に至る。
もしかして無意識にベッドに潜り込んだのか?…いや、それはないだろ…。じゃあこの状況はなに。
貴祥を起こしたくはないが、このままでいるのも困る。なんとか腕を外そうとしても、まるで抱き枕を抱え込むようにされているせいで、外せる気がしない。
「…貴祥さん、ちょっと離れて下さい」
躊躇いつつ名を呼んで脇腹を軽く叩くと、少しだけ貴祥が身動ぎした。
「悪いけど、少しだけ起きて」
「……うるさい」
「……ッ…ン!?」
突然身を起こした貴祥に上から覆いかぶさられ、伸し掛かる体の重みに呻いた眞秀の唇に熱くやわらかな何かが押し当てられる。
「…な…ッ」
「黙れよ」
「…ぅ…ッ…」
色めいた低い声を紡いだ貴祥の唇が、眞秀の口元を覆い尽くした。
…な…んで…。
驚きに茫然とする眞秀に構わず、貴祥の唇に食らいつかれるように深く口づけられる。無理やり差し込まれた舌が口内を舐り、吐息すらも奪う強引さで吸い付く。
息苦しさに貴祥の肩を掴もうとするも、その手を取られてベッドに押し付けられた。
「…ン…ッ…は…ぅ…」
まさに貪られるといった調子で唇に噛みつかれた眞秀は、次の瞬間、口内の奥まで忍び込んだ舌に上顎をなぞられて背筋をびくりと震わせる。くすぐったい場所は快楽の場所でもある。じわりと腰にたまる熱に、身を捩らせて耐えるしかない。
あまりに濃厚な口づけに反応して、下半身が緩く首をもたげる。それに気づいたのか、貴祥が腰をぐいっと押し付け、己のそれを眞秀のモノに擦りつけた。
「…んぁ…ッ…、やめっ…!」
掴まれていないもう片方の手で貴祥の体を押し離そうとして、そちらも手首を掴まれてベッドに押し付けられる。
そこでようやく顔を上げた貴祥は、喘ぐように呼吸をする眞秀の顔を見下ろして嗜虐的な笑みを浮かべた。そして見せつけるように、唾液で濡れた唇をペロリと舌で舐める。
眉を顰めてそんな貴祥を見上げた眞秀に告げられた言葉は、思いもよらないもので…。
「体が弱ってる時ほど本能が顔を出す。…男っていうのは本当にどうしようもない生き物ですよね、…眞秀さん」
そこで尚更強く腰を擦りつけられた眞秀の唇からは、咄嗟の事に堪える事もできず甘い声がこぼれ落ちた。
「ぁあッ…ン…っ」
眞秀の手首をベッドに押し付けたまま上半身を浮かせ、明らかな意図を持って何度も腰を揺らす貴祥に、体がビクビクと震える。殺しきれない嬌声が、次々と唇から溢れ出てしまう。
完全に立ち上がっている性器は、もう既に治まらないところまできていた。
貴祥も興奮しているのか、瞳に熱情の色を映し、荒い息を上げて容赦なく眞秀を追い立てる。
もどかしい刺激に、我知らず無意識に揺れてしまう腰を自ら貴祥へ押し付けてしまった眞秀は、快楽の証を吐き出したくて、もう耐える事が出来なくなっていた。
擦り付けられる貴祥の熱く硬いそれが気持ち良くて、全身を甘い痺れが覆い尽くす。
直接的な刺激が足りなくて、どうしても最後までいく事が出来ないのが辛い。身を捩りたくても、手首を押さえつけられているせいで思うように動けない事が、なおさら悶えるような快楽に結びつく。
そんな淫らな眞秀の姿を見下ろした貴祥もまた、切羽詰まった動きに変わっていた。
不意に片腕が離されたかと思えば、貴祥の手が下に伸ばされて性急に互いの下衣が引き下ろされる。直接性器を握り締められたと同時に、眞秀の唇から抑えきれない嬌声があふれ出した。
骨ばった大きな手で二つのモノを握り締められ、更なる快楽を煽るように貴祥の腰が激しく揺らされて、擦れあった熱い欲望の先からトロリと何かが滴ったのがわかった。
「く…ッ…、は…ぁっ」
「…い…ッン…あぁッ!」
背筋を貫いた甘い感覚と、下肢からドクドクと溢れる精液。荒い呼吸に上下する眞秀の胸に、貴祥の体が崩れるように伸し掛かってくる。そして耳元に触れる熱い吐息。それすらもゾワゾワとした痺れを呼び起こしそうで、眞秀は必死に声を抑えつけた。
起き抜けという事もあってか、簡単に籠絡してしまった自分に居たたまれなくなる。
「ハァッ…ん……ッ…。なんで、こんな事…」
「…弱った俺に、近づくからですよ…」
眞秀よりも早く呼吸が落ち着いたらしい貴祥は、ベッドに手をついてゆっくりと上半身を起こす。
眞秀は、真上から見下ろしてくるまだ熱のこもったままの瞳に気づくと、今更ながら羞恥に襲われ、顔がカッと熱くなったのを感じて目をそらした。
何がおかしいのか、喉奥で噛み殺すような笑い声をこぼした貴祥は、ふと身をかがめて眞秀の唇に優しく触れるだけのキスを落とす。
「ッ…なにを」
「キスしただけでそんな狼狽えないで下さい」
したり顔で言い放つ貴祥はどこか機嫌が良さそうで、初めて見るそんな様子に、何故か言葉が出てこなくなってしまう。
いつもの刺々しい空気がない。それよりも如実に感じるのが、“拒絶の気配”がない。
気怠い体と混乱する状況に思考が追い付かず、何も言えずにひたすら貴祥を見上げていると、何故か苦笑じみた溜息を吐かれてしまった。
「…シャワー、浴びましょう。さすがにこのまま二度寝する気にはなれない」
反射的に頷いた眞秀だったが、片手を引かれて身を起こすと同時に、互いの吐き出したもので汚れている下着やスラックスを目にしてクラリと眩暈を覚えた。
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