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第46話

*―――*―――*―――* もうすぐ日付が変わる夜更け。 店の定休日である今日、眞秀は夕方になって訪れた黎一のマンションで、この数日間の忙しさを思い出してぐったりとソファーに身を沈めていた。 3日前の事件以降、後処理の対応にバタバタしていて、こうやって二人きりのプライベートな時間をもつのは初となる。 壊された店の修理や改装。プレイヤー達は自分の客に事情説明をして(もちろん本当の事ではなく偽の説明)客離れを防ぎ、黎一はサンクチュアリのオーナーである南条と話をつけ、そして亜里沙とも話をしたという。 詳しくは語らなかったが、片は着いたとの事。 そして、途中で現れた高柳という男が、この近辺では一番勢力の大きい組の幹部で、黎一とは結構昔から親しくしている友人だと教えてくれた。 ちなみに、何故あのタイミングで高柳が店を訪れたのかについては、これは少し予想外の話が上がってきた。 なんと、高柳を呼んだのは蓮司だったらしい。あぁ見えて意外と目端が利いているのは知っていたが、今回はそれが発揮されたようだ。 時々黎一と親し気に話しているところを見かけていた人物が、裏社会で名の知れている高柳というヤクザだと知ったのはつい最近の事。それを思い出した蓮司は、押しかけてきた根元達から逃れて店の外に出た瞬間に彼を探して街中を走り回ったという。 やみくもに探し回っていたところ、本当に偶然遭遇した高柳に事情を説明し、面白そうだと話に乗ったところで随伴してきたとか。 肝が据わっているを通り越して無謀ともいえるが、今回はそれに助けられた。 なんだかんだで蓮司にはとても助けられていると思う。今度お礼を兼ねて飲みにでも連れて行こうか…。 そんな事を思ってぼんやりとしていた眞秀の体が、ソファーの揺れと共に僅かに動く。 ちらりと横目で見ると、グラスに注いだ赤ワインとチョコレートをテーブルに置いた黎一が隣に座ったところだった。 「…アルコールは当分禁止って言われてなかった?」 「このくらい問題ねぇよ」 肋骨にヒビ。数か所の打撲。診察結果は全治一か月。平気な振りをしているけれど、2週間くらいは物凄く痛いらしい。と、肋骨にヒビの入った経験がある実が言ってた(いったい何をしてヒビが入ったのか怖くてきけなかったが…) 痛み止め薬と湿布。痛み止めによる胃荒れを防ぐ胃薬。そしてコルセット。 黎一の事だから適当に放置するかと思ったけれど、今回は大人しく薬を飲んでコルセットを装着している。 顔には出さないが、行動がいつもよりゆっくりしているところなどを見ると、かなり痛いのだろうとわかる。 「痛み止めとアルコールの合わせ技は良くない」と尚も言い募る眞秀に、黎一は無表情の視線を寄越すだけ。 これ以上言っても無駄だとわかり、嘆息混じりにチョコレートを口に運んだ。 さすがとでも言おうか、黎一が用意したチョコレートはそんじょそこらの物とはまったく違う、カカオの芳醇な香りを余韻に残す素晴らしく美味しいものだった。 以前蓮司からもらったカカオ独特の果実香のするチョコレートも美味しかったが、これはどこか木の実の香りを漂わせる香ばしさがある。赤ワインにぴったりだ。 無意識に表情を綻ばせてた眞秀を見た黎一は、フッと小さく笑いをこぼした。 「お前チョコレート好きだよなぁ…」 「…ん?…、あぁ…、うん。カカオの香りを感じられるチョコは好きかな」 「へぇ…」 「なに」 そこで何かの色を持たせた黎一の返事に、もう一つチョコレートを摘まもうとしていた眞秀の動きが止まった。 横を見ると、こちらを横目で流し見ている黎一の瞳が悪戯気に笑んでいる事に気付く。 「俺の事好きって言ったことないよなぁ、お前」 「え?」 「ほら言えよ。好きなんだろ?」 「…………は?」 眞秀はまだ自分の気持ちを伝えていない。いつ告げようかと悩んでいただけに、このいきなりの発言には動揺するしかない。 そんな眞秀の胸の内などわかりきっている黎一は、鼻先で笑ってワインを飲み干した。 「感情を無理強いするつもりは毛頭ない。けど、あの時のお前を見てわかった。……眞秀、お前俺の事が好きだろ。それがわかったから、もう遠慮はしねぇ」 「………」 テーブルにグラスを置いた黎一は、そのまま眞秀の顔を覗き込むように身を近づける。 「俺の事が好きだって言えよ」 「……馬鹿だろ黎一」 恥かしげもなくそんな事を言ってくる黎一に、顔が熱くなる。 こんなタイミングで言うつもりじゃなかった。こんなの予定にない。どうやって言おうかまだ言葉も選んでいない。 動揺と混乱と羞恥に、瞳が揺れる。 「…言わないならお仕置きだな。ここに一週間くらい閉じ込めて」 「………お前…、知ってたけど、ほんと魔王だよな」 「言え」 「………」 「…ふーん?俺の事好きじゃねぇんだ?」 そう言って身を離そうとする黎一の襟元を、反射的に掴んで引き寄せた。 「…っ…言えばいいんだろ!あぁそうだよ!俺は黎一の事が好きだ!好きで悪いか馬鹿!」 なんで怒鳴って告白しているんだよ…。なんて自分に呆れもわくけれど、勢いに任せて言ってしまったのだからもう仕方がない。 いまや全身に熱が回って、爆発してしまいそうに熱くて死にそうだ。

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