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after
互いの想いが通じ合ってからのこの2ヶ月。土曜の仕事が終わると問答無用で黎一の部屋へ連れていかれ、日曜日が定休日なのを良い事に何時間も抱きつぶされる事が常と化していた。
「っ…あ…ッン、待っ…レイ…ぁあ…っ」
背後から容赦なく突かれ、体内を深く犯してくる熱の固まりにただただ翻弄される。
唇から零れ落ちるのは掠れた喘ぎ声と甘い悲鳴。
既に何度か中に放たれた白濁の体液が、激しく穿たれるたびに後孔から溢れだす。
耳に触れる淫らな水音に羞恥を覚えるには、既に眞秀の意識は快楽に飲み込まれ過ぎていた。
「…ッく…、ハ…ァ…。まだ足りねぇ…、もっと啼けよ、眞秀」
深く深く、抉るように剛直を突き入れてくる黎一に、ベッドに着いていた眞秀の腕が崩れ落ちる。
腰を突き出す形となり、シーツに顔を埋めて熱い吐息をこぼすその姿に、黎一の情欲は更に煽られた。
いくら抱いても治まらない熱。眞秀を貪れば貪るほど溢れ出る独占欲。いっそのこと檻にでも閉じ込めてしまいたい。
眞秀を手に入れれば少しは落ち着くかと思った想いは、時と共にその熱量を増すばかりで、黎一の脳髄を甘く溶かしてやまない。
もう許してくれと啼く艶めいた声が理性を壊す。もっと狂いよがればいい…と、ひと際強く腰を叩きつけた黎一は、悲鳴のような呻き声をあげた眞秀の体に覆いかぶさり、汗に濡れる首筋に歯を立てて食らいついた。
いつもの如く途中で意識を飛ばした眞秀が目を覚ましたのは、早朝をとうに過ぎた頃だった。
あまりのダルさに小さく唸った声が聞こえたのか、ベッドの縁に座って煙草を燻らせていた黎一が片手を伸ばして髪をぐしゃりと撫でてくる。
「…黎一」
「ん?」
「加減を知ってくれ」
喘ぎすぎて掠れた声で文句を呟く眞秀の姿に、黎一の瞳が楽し気に細められる。そのなんとも言えない表情に気圧されて思わず目を逸らしてしまったが、
「お前が俺に抱きつぶされてぐったりしてる姿を見るとゾクゾクする」
嬉しそうにそんな鬼畜な事を口走る黎一に、もう何も言うまいと諦めて毛布に包まり目を閉じた。
昼になり、さすがに空腹を訴えてくる己の腹に従いベッドから身を起こした眞秀は、いろいろと痛む体を叱咤しながらシャワーを浴びてリビングへ向かい、黎一が作った和風パスタを目の前に「いただきます」とフォークを手にした。
この俺様魔王のイメージにはそぐわないが、実は黎一はそれなりに料理ができる。
この男に死角は無いのかと、うらやむを通り越して呆れてしまうくらいになんでも熟 してしまう。
それも美味しいのだから腹立たしい。
眞秀もそれなりになんでも熟す器用な人間だが、黎一を見ているとつくづく自分は平凡なんだと思ってしまう。(平凡だと思っているのは本人だけという事に本人だけ気づいていないが…)
なめ茸(手作り)と大根おろし、そしてツナの乗った和風パスタをぺろりと完食した眞秀が片づけを終えてソファーに座ると、カウンターで新聞を読んでいた黎一もそれを置いて移動してきた。
黎一が隣に座った瞬間ふわりと香ったシャンプーの匂い。それが今の自分と同じ匂いだという事に気恥ずかしさを感じる。まるで事後だと知らしめているようだ。
そんな思いで身動ぎした眞秀を横目に、黎一が何かを思い出したように口を開いた。
「…あぁ…、言い忘れてた」
「なに」
「今住んでる部屋を引き払ってここに来い」
「………………え?」
「なんだよその間抜け面」
「う…るさい、間抜け面で悪かったな」
「で?」
「は?」
「いつ?」
「なにが?」
「引っ越し」
「…………」
茫然と固まった眞秀は、小さく呻き声を上げて髪をぐしゃりと掻き乱した。
今日が日曜日で店が休みだからって、仕事が終わってから朝日が昇るまで延々と好き放題に啼かされたあげく、過ぎた快楽と疲労感に働かない頭でボーッとしている時にこんな事を言われて、まともに考えられるわけがない。
それも、なんかもう決定事項?みたいな言われ方をされた。
「余ってる部屋をお前の部屋にすればいい。ただし寝室は一緒だ。ベッドは持ってくるんじゃねぇぞ」
黎一の提案に喜びを感じないわけじゃない。ただ、なんとなく大変そうな気がして物凄く悩む。そもそも、黎一が誰かと一緒に生活する事が想像できない。
そして何より、…毎晩抱きつぶされそうで怖い…。
去年のクリスマス以降、眞秀を手に入れたことで、黎一はもう我慢も遠慮も必要ないとばかりに己の欲望のまま行動している。
「仕事中はほとんど会えねぇんだから、それ以外の時間は全て俺に寄こせ」
この魔王様発言を嬉しいと思う自分もどうかしている。どうかしていると思うのに、もっと求めて欲しいと願ってしまう。
好きな相手からの執着は、心をざわつかせて全身を熱くする。
落ち着くべき所へ落ち着いた今の自分がとても幸せで、そして心地良い。
許される答えはただ一つ。それはもう既に決定事項でありながら、だからと言って言葉にしないわけではなく…。
「引っ越し業者の予約が取れ次第、ここに来るよ」
眞秀の言葉に満足気な表情を浮かべた黎一は、テーブルの上に置いてあったスマホを手に取って何か操作をしたあと、それを放り投げてきた。
「業者はもう選んで話も通してある。担当は佐藤。その連絡先に今すぐかけろ。あとは日時の予約を入れるだけだ」
「………」
四方八方に罠を張り巡らされて身動きが制限されているような微妙な気持ちになった眞秀だったが、溜息を一つ吐くと同時にスマホを操作した。
電話をかける直前、横から伸びてきた手に通話機能をスピーカーへと変えられた時は一瞬動きを止めてしまったが、隣に座る男の当然とした表情を見てしまえば呆れと共に笑いがこみあげてくる。
眞秀と業者のやり取りを全て知りたいのだろう。そしてそれをする事に躊躇いさえない。
本当にどこまでも魔王様だよ黎一は…。
『お待たせしました!引っ越しの〇〇です!』
スマホの向こうから聞こえる明るい声があまりに場の空気とそぐわなくて、思わず小さく笑い声を上げた眞秀だった。
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