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山羊脚の悪魔
「もういい。充分だ。出て来い、アズィーズ」
領主ではない誰かに青年は告げた。
すると、グラリと部屋が大きく揺れた。時空の歪みが生じ、ピシリと裂け目が表れた。
天井の亀裂から、大きな蹄を持つ毛むくじゃらの脚が現れた。
長い鍵爪を持つ手が、更に歪みを拡げる。
『我、我、我は勇猛なる雄山羊の悪魔。悪魔の王の息子』
しゃがれた声の主が亀裂から頭を潜らせ、その巨体をゆっくりと見せた。
炎の息を吐き、獣の瞳で領主を捕えた。
『その男は、我、我、我の所有物。人間如きが傷付けては、為らぬ。為らぬ』
「ひ、ヒィイイ!!」
見事な角を持つ巨大な悪魔だ。領主は胯間を縮こまらせて、歯をガチガチと鳴らして震え上がった。
『怯えるがいい。人間よ。我が怒りは炎と同様に美しい……』
「あ。そうゆうの、いいから」
悪魔の口上を青年が止めた。
「ちぇ」
部屋いっぱいだった悪魔の巨体がシュルシュルと縮んだ。
「お前なぁ。もっと早く止めるか、最後まで言わせろよな」
悪魔───アズィーズが唇を突き出して文句を言った。
「ノリノリだったから、止めるタイミングを逃したんだよ」
青年は呆れた眼差しでアズィーズを見た。
「お前たち……な、な、何を……!?」
青年は自分の背後で唖然としている領主に冷たく言った。
「どっちみち、あんたは死ぬんだよ」
青年───リュカが、悪魔アズィーズに出会ったのは、今から六年前だった。
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