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美しい異形

いつのまに、どうやって入ってきたのか。 リュカの顔の横に、ソイツはしゃがみ込んで、リュカを見ていた。 リュカはソイツをゆっくりと見上げる。 山羊のような蹄。 赤地に金の刺繍の入った布の腰巻から、黒い毛並の良い脚が見えた。 先端が銛のように鋭い、黒い尾がユラユラ揺れている。 しゃがみ込んだ膝に乗せた両腕には、ジャラジャラと黄金の腕輪をしていた。 下半身は山羊、上半身は人間のようだった。 リュカは異形の顔を見た。 絶世の美女とも言えるような美しい顔だった。こんな美人、初めて見た。でも胸は無い。残念。男だ。 だが、その美しい緑の瞳は瞳孔が横に長い。 そして、黒髪の間からニョッキリと立派な角が生えていた。 「死神……?」 「いいや。あんな髑髏ヤロウと一緒にすんな」 異形が喋った。 「俺は悪魔。アズィーズ。お兄さん、面白い呪いがかかってるね」 「……面白くねえよ。最悪だ。変わってくんねえ?」 悪魔アズィーズは面白そうに眼を細めた。 この異形の姿を見て、そんな口のきき方をする人間は珍しい。 「ふ~ん」 アズィーズはリュカの焼けただれた顔を品定めするように見ていたが、赤く長い舌でベロリと傷を舐めあげた。 「ッッ!? うぁあッ!」 ジュッと焼けたような感覚の後、失ったはずの右眼が開いた。 「……え?」 アズィーズは治癒したリュカの顔を見て言った。 「やっぱりね。お兄さんの顔、もろ好みだわ。俺と契約して愛人にならない?」 「今度は悪魔に拷問されんのかよ」 「あ。俺、ネコだし。セックスしながら拷問するとか無理だわ。なに? もしかしてお兄さん、マゾなの?」 「違う」 「なら、いいじゃん」 アズィーズはニッと笑って、己の腕に乱杭歯を突き立てた。 悪魔の腕からボタボタと血が流れ落ち、リュカの傷口に吸い込まれていった。 「───ッッ!!」 一瞬の焼けるような痛みの後、ボロボロだった肉体が、元の美しい体に戻った。 「あ……呪いが解けたのか!?」 「呪いはかけた本人にしか解けないよ」 「呪いを解いてくれたら、愛人になってやる」 リュカはアズィーズの異形の瞳をまっすぐに見て告げた。

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