4 / 6
美しい異形
いつのまに、どうやって入ってきたのか。
リュカの顔の横に、ソイツはしゃがみ込んで、リュカを見ていた。
リュカはソイツをゆっくりと見上げる。
山羊のような蹄。
赤地に金の刺繍の入った布の腰巻から、黒い毛並の良い脚が見えた。
先端が銛のように鋭い、黒い尾がユラユラ揺れている。
しゃがみ込んだ膝に乗せた両腕には、ジャラジャラと黄金の腕輪をしていた。
下半身は山羊、上半身は人間のようだった。
リュカは異形の顔を見た。
絶世の美女とも言えるような美しい顔だった。こんな美人、初めて見た。でも胸は無い。残念。男だ。
だが、その美しい緑の瞳は瞳孔が横に長い。
そして、黒髪の間からニョッキリと立派な角が生えていた。
「死神……?」
「いいや。あんな髑髏ヤロウと一緒にすんな」
異形が喋った。
「俺は悪魔。アズィーズ。お兄さん、面白い呪いがかかってるね」
「……面白くねえよ。最悪だ。変わってくんねえ?」
悪魔アズィーズは面白そうに眼を細めた。
この異形の姿を見て、そんな口のきき方をする人間は珍しい。
「ふ~ん」
アズィーズはリュカの焼けただれた顔を品定めするように見ていたが、赤く長い舌でベロリと傷を舐めあげた。
「ッッ!? うぁあッ!」
ジュッと焼けたような感覚の後、失ったはずの右眼が開いた。
「……え?」
アズィーズは治癒したリュカの顔を見て言った。
「やっぱりね。お兄さんの顔、もろ好みだわ。俺と契約して愛人にならない?」
「今度は悪魔に拷問されんのかよ」
「あ。俺、ネコだし。セックスしながら拷問するとか無理だわ。なに? もしかしてお兄さん、マゾなの?」
「違う」
「なら、いいじゃん」
アズィーズはニッと笑って、己の腕に乱杭歯を突き立てた。
悪魔の腕からボタボタと血が流れ落ち、リュカの傷口に吸い込まれていった。
「───ッッ!!」
一瞬の焼けるような痛みの後、ボロボロだった肉体が、元の美しい体に戻った。
「あ……呪いが解けたのか!?」
「呪いはかけた本人にしか解けないよ」
「呪いを解いてくれたら、愛人になってやる」
リュカはアズィーズの異形の瞳をまっすぐに見て告げた。
ともだちにシェアしよう!