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緋佐塚文汰

緋佐塚文汰は、決められたレールの上を産まれた時から歩んでいた。緋佐塚家という名家の次男として生を受けてから、兄の右腕となるべく育ってきた。 それが当たり前だと、“あの時”まで思っていた。兄の支えになるのが、自分の喜びだと思っていたのに。 “あの時”を境に、兄が、両親が、緋佐塚家に関わるすべての人が疎ましく思えた。 それからというもの、決められたレールから離れるようにして過ごしてきたが、結局はまたレールの上に戻っている。それが嫌でたまらなくて。でも、自分はもうこのレールの上から逃れることは出来ない。 ならばと、少しでもそのレールを壊してやろうと思い見つけたのが白だった。 キレイな妻を娶り、優秀な子を嫁に孕ませろ。 物心ついた時から、言われ続けていた言葉。それをまずは怖そうと思って白を手に入れたのだ。キレイな妻ではなく、平凡な男。しかも戸籍のない者を、両親が許すはずがない。だから、白の人生を買ったのだ。 ただ反抗のために白を買った。それ以上の意味があるわけないと、文汰は思っていた。 しかし、“緋佐塚白”となった白と一緒に過ごし初めて何かが文汰の中で変わっていったのだ。 そばにいてほしい。離れないでほしい。自分だけのものであってほしい。 「んぅ、……あやた?」 眠たそうに目を擦りながら、白が文汰を見上げる。たったそれだけのことなのに、文汰は胸がギュッと締め付けられるような感覚を味わった。 「―――――――おはよう、白」 「ん。おはよー」 胸がギュッと締め付けられるぐらい、幸せを感じている。 だからこそ、文汰は本当に幸せそうな笑みを浮かべることが出来るのだ。 その裏に、どす黒い感情を隠して――――――。

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