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文汰の母、登場

文汰と白の2人だけで生活している家に、見知らぬおばさんが来た。たまに来る文汰の秘書である村田が、慌てたようにおばさんの後ろから来た。 いつものように、1人勉強していた白は知らない人の登場に警戒する。そんな白の態度に、おばさんは気を悪くしたらしかった。 ツカツカと白の目の前に来ると、思いきり頬を打ってきた。バシンと大きな音がする。村田が、慌てたようにおばさんを止めた。 頬を打たれた白は、自分に何が起こったのか理解出来ていないようだった。でも、ジクジクと頬が痛くなってくる。 「万里(まり)様、お止めください!その方は文汰様の奥さまで、そしてお子を身籠られているんです!」 「そんなの、文汰さんの子かどうか分からないでしょうが。今まで、見知らぬ男の子供を何度も産んでるんですから。汚らわしい。こんな汚らわしい人間が、緋佐塚家の名前を名乗るなんて、許しませんよ!!」 白に難しいことは分からない。でも、目の前にいるおばさん―万里―が白を認めていないのだけは分かった。 「…………おばさんの言ってること、俺にはよく分かんない。でも、でも、文汰はいいって言ってくれた。これからずっと、“緋佐塚白”って名乗っていいって、言ってくれた!」 「そんなこと、緋佐塚の本家が許す訳がないでしょう!!」 もう一度、万里が白を打とうとしたが村田がそれを必死で止めた。 「お止めください万里様!!」 「っ、まあいいわ。どうせあなたは、今日でこの家を出ないといけないんですから」 万里はそう勝ち誇ったように言うと、白の近くに置いてあったテレビのリモコンを持ち電源をつけた。そしてチャンネルを選び、ニコリと笑う。 「ご覧なさい。文汰さんの婚約発表の記者会見よ」 万里に言われた通りテレビを見れば、そこには文汰と知らない女性が映っていた。女性の方は、恥ずかしそうにでも嬉しそうにはにかんでいる。文汰は無表情で、ただそこに座っているだけだった。 どうやら、婚約発表の記者会見というのは本当のようで。テロップでそのような主旨が書かれていた。 「ちがう、ちがう、ちがう、ちがう!!!」 白は叫んだ。いつの間にか、涙も零れていた。そんな白に記者会見の様子を見せまいと、村田が抱き締める。そんな村田にしがみつき、白は泣き叫んだ。 そんな白の様子を見て、万里はただ高笑いしている。嫌な万里の笑い声が響いていたが、その笑い声が一瞬にして止まった。そして、白の泣き叫ぶ声も止まる。 文汰のある一言がきっかけで。

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