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文汰の想い

『―――華苑(はなぞの)家と俺の両親がどんな契約を交わしたかどうか知らないが。俺は、この女と婚約するつもりはない』 無表情だった文汰が、呆れたように言葉を発した。隣にいた女性が、目を見開いて驚く姿が映る。文汰に、今どんな心境ですかと質問した記者も、その場にいた他の記者も驚いているだろう。 『それに俺はもう、一生を添い遂げたい奴がいる。そいつの腹には子供がいる』 会場がざわめいた。文汰の隣にいた女性は、耐えられなくなったのだろう。口元を押さえながら、会場から姿を消した。どんな表情をしていたか映ってはいなかったが、たぶん泣いていただろう。 そんな女性のことなんて気にも止めず、文汰は言葉を続ける。 『そいつとの始まりは、けして世間から褒められるものじゃない。ただの反抗心で一緒にいた。でも、今は違う』 無表情だったり、呆れた表情しか見せていなかった文汰が優しい笑みを浮かべた。白がいろんな話をする時に、いつも見せてくれる笑みだ。 文汰が気づくとは思えない。でも、文汰が笑みを見せるから白も笑った。 『緋佐塚を捨ててでもそばにいたい。ただの文汰になっても、一緒にいた。いつの間にかそう思えた』 「あやた、」 白は、テレビの文汰に向かって手を伸ばした。そして手を伸ばしてテレビに触れると、額をテレビ画面に当てて文汰の温もりを感じようとした。感じられないと分かっているが、そうせずにはいられなかった。 『だから、俺の両親が認めないというのなら俺は縁を切る。もう家族でも何でもない。他人だ。だから俺はもう、俺の生きたいように生きる』 そう文汰は言うと、椅子から立ち上がりその場を後にした。呆けていた記者達がこぞって質問に行こうと立ち上がったが、扉はもう閉められていた。 「っ、あなたがいるから、あなたがいるからっ!!!!!」 会見の様子を見てワナワナと身体を震わせていた万里が、鬼の形相で白に向かってきた。しかし、村田が万里の進路を阻む。 「っ、退きなさい村田!!!!」 「いいえ、退きません。文汰様がご両親と縁を切った今、私が言うことを聞くのは、緋佐塚文汰様とその奥様である白様だけです。あなたの言うことなど、聞く必要はありません。あぁ、もう他人だから敬語も使わなくていいよな」 とっとと失せろ。 様子の変わった村田に逆らうことなど出来ず、万里は何かを叫びながらドタバタと家から出ていった。

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