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第3話
暫し無言で、琳太朗が食べ終えるまでを待つ。
琳太朗が手を合わせたのを見て、真郷も同じように合わせる。
ご馳走様も一緒にした後、真郷は二人分の食器を流しに運んだ。
そして、テーブルや壁を頼りに歩く琳太朗の手を引いて流しに立った。
「袖、まくるね」
琳太朗朗のすぐ後ろに立ち、袖を捲り上げる。
そして真郷は琳太朗の手をとってスポンジを持ち、食器を洗い始めた。
共同作業の食器洗い、提案は真郷からだった。
“自分も働かないと”と焦る琳太朗だったが、一人で家事をすることは難しい。
もどかしさを感じる琳太朗に、真郷は一緒にやることから始めようと言ったのだ。
食器洗いに花の水やり。
最近、テーブル拭きは一人でやるようになっていた。
慣れもあるが、床の色と違うテーブルにしたことで見やすくなったことも一因だろう。
「お昼は冷たい麺類にしたいなぁ。暑いだろうし」
「冷やし中華が食べたい」
「うーん……また今度、ね。今日はひやむぎ」
冷蔵庫の中身を思い浮かべながら、真郷は申し訳なさそうに言う。
琳太朗の表情は見えないが、「はーい」という声は真郷の耳に届いた。
後ろに立つと耳元で話しやすく、真郷にとってはちょうどいい立ち位置だった。
聴覚の面は、以前よりも良くなってきていた。
寝起きや騒音下ではまだ耳元で話さなければいけないが、会話をする分にははっきりと話せば問題はない。
「よし、じゃあこっちは拭いておくから、テーブルお願いね」
真郷は絞った布巾を琳太朗に渡す。
食器を拭きながら、真郷はちらりと琳太朗の様子を見ていた。
丁寧に布巾を滑らせるその手つきは、もう慣れたものだ。
満足げな顔をする琳太朗を見て、真郷の気持ちも穏やかになるようだった。
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