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第4話
片付けも終え、一息つこうと二人は着替えをして外に出る。
ドアを開けた瞬間に感じた風に、琳太朗は肩をすくめた。
「風、こんなに強いんだ」
「思ったより強いな……手、ちゃんと握ってろよ?」
飛ばされるから、と軽く笑って真郷は琳太朗の手をとる。
そして木陰にある切り株まで行き、二人で腰掛けた。
木々のざわめきが思うよりも強く、長居はできないなと真郷は考えていた。
「なんか、匂い強くなった? 木とか、草とか」
「そうか? 俺には変わらないように思うけど」
「風のせいかな。前より、分かりやすい」
すん、と匂いをかぐ琳太朗。
強くなった匂いは風の所為か、季節の所為か。
それとも、琳太朗自身の変化なのか。
「花は大丈夫? 倒れてないかな」
「今のところは何でもないよ。背が高いのはないから」
「そっか、なら良かった」
ただ自然の中に、座っているだけ。
散歩とは言えど遠出はせず、庭をぐるっと回るのがいつもの流れだった。
草花と陽と、少し歩けば見える海。
今はその世界を見せるだけしかできないが、それでも琳太朗には十分だった。
数年間、窓のない装飾だけが豪華な部屋に囚われていた身にとっては、自然の優しさが嬉しかった。
「今度さ、野菜も育ててみようよ」
「いいね。瀧川さんが来た時に相談でもしてみようか」
瀧川というのは、以前から真郷の身の回りの世話をする壮年の男性だ。
真郷と琳太朗が家を出てからも、二人のことを気にかけている。
家を出て、2年。
二人はその間に幾度となく瀧川の世話になっていた。
本来はここまでする必要がないのに、私のわがままだと何かと動いてくれている。
全てを知った上で二人に関わることを選んだのは、瀧川だけだった。
「実ったら美味く料理しなきゃなー。3人で食べたいし」
「ふふ、また楽しみが増えたね」
風で騒ぐ髪を耳にかけながら、琳太朗は笑う。
楽しみを見つけらるようになったのだ、と。
真郷は一人でその喜びを噛み締めていた。
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