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第8話
真郷は座ったまま、んーっと声を漏らしながら身体を伸ばす。
洗濯や夕飯の支度を瀧川に任せていたため、時間を忘れて資料に没頭していたのだ。
丁度用意の始まった頃だろうか、と真郷は部屋を出てキッチンに向かった。
*
そこで見たのは、難しい顔をしながら鍋をかき混ぜる琳太朗。
そして、その隣に立って手を添えながら苦笑いをする瀧川の姿だ。
「何してるんですか」
真郷がそう声をかけると、ぱっと二人が振り向く。
驚いた顔の琳太朗と、安堵の表情を浮かべる瀧川。
反応の違う二人に、思わず真郷はふき出した。
「琳太朗さんがお料理の手伝いをしたいと……まずは刃物以外からと思いまして」
「今鍋みてるの……」
そう言いつつ、琳太朗の視線はまた鍋に向かっていた。
目を細めて真剣に鍋を見つめる姿は、真郷の目には微笑ましく見えてしまう。
きっとひと時も目を離してはいけないと思っているのだろう、と。
一生懸命な様子を見れば、そう考えるのは容易だった。
「料理手伝いたいなんて……俺には言ってくれなかったのに」
「……自分で、頑張りたかったの」
真郷のその言葉は、少し寂しさも含んでいた。
何を始めるにも真郷の許可が必要だと感じてしまっているのなら、確かに窮屈だ、と。
しかし琳太朗は、窮屈さはあまり感じていない。
ただ、今日この場で見られるのは少し不本意だっただけなのだ。
「ほらっ、今日は俺が瀧川さんと協力して作るから。真郷はゆっくりして待ってて?」
琳太朗はソファのある方を指し、真郷にそう告げた。
はいはい、と真郷はため息をつきながら言われるがままにソファに座り、二人の後ろ姿を見つめる。
琳太朗の労いを、真郷は大人しく受け取った。
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