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第11話

琳太朗が頭を洗う間、2人の間に会話はない。 どことなくお互いが緊張しているのが分かり、それもまた気まずさの一因になっていた。 「な、流すね……よっ、と」 真郷の体に負ぶさるように前のめりになりながら、琳太朗はシャワーに手を伸ばす。 触れた温かな上半身に、思わず真郷は眉間に皺を寄せる。 自分が洗う側であれば、堪えるのにはもう慣れたのに。 受け手になればこうも我慢が辛いものか、と。 流される間も、真郷はただただ黙って己と戦い続けた。 「大丈夫かな。洗い残し無い?」 「ないよ。スッキリした、ありがとな」 流し終え、真郷は琳太朗を振り返ってやっと話が出来た。 未だに心臓は普段より速いけれど、隠せる程度だ。 そう、だったのに。 「……っ、琳太朗?」 「ごめんね、真郷。なんか俺、こうしたくなって」 琳太朗が、ゆっくりときつく、真郷を抱きしめる。 背中で感じる琳太朗の鼓動は、今全力で走り終えたかのように激しかった。 「俺、あんまり真郷の後ろ立たないから……新鮮で」 琳太朗は恥じらいながらそう言い、一度ぎゅっと力を込めた後に体を離す。 安心する、ときめく背中。 それにいつも守られているのだと思うと、見惚れるしかなかった。 すると真郷は体ごと琳太朗の方を振り向く。 柔く手をとったあと、頭に手が添えられる。 真郷の強過ぎない力に引き寄せられて、互いの唇が触れた。 「……ごめん」 真郷は不意にそう呟く。 なぜ謝られたの、と琳太朗は不安げな顔をした。 その疑問は、真郷には容易く伝わったようだ。 「手、震えてる」 怖がらせたね、と真郷は申し訳なさそうに言った。 まるで真郷が悪いかのような雰囲気に、琳太朗は首を振る。 そして、握っている真郷の指先に軽くキスをした。 「怖くないよ、真郷のなら。俺、まだ慣れなくて、どきどきしちゃうだけなんだ」 だから、と言葉を続けようとする琳太朗の唇が、もう一度塞がれた。 「良かった」 そう言った真郷の顔は、ひどく安心したものだった。

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