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第12話
その後、先に上がってと促された琳太朗は一足先に脱衣所で服を着る。
未だに走り続ける鼓動を静めたくて、深呼吸を繰り返した。
(こんな、キス……久しぶりだ)
いつもは額や頬に、軽く触れるだけ。
唇が触れ合ったのは、家を出ると決めた日が最後だった。
琳太朗と真郷の関係は、確実に恋人ではある。
しかし、互いを好きだという明確な言葉なく曖昧なスタートを切った。
惹かれて、好き合って、逃げると同時に結ばれて。
段階は踏んでいたけれど、それは確かめずにお互いの感覚でそう思っている。
言葉を交わす時間が、そもそも少なかったということもあるのだけど。
確かに好きだけれど、“恋愛”はしてこなかった。
だから今、互いにときめきあうという状態になっているのだ。
「あれ、まだ髪乾かしてなかったの?」
「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしちゃって」
「待ってて、俺が乾かすから」
ふーと琳太朗が息を吐いた時に、真郷が上がってくる。
何事もなかったかのような真郷の反応に、一方的に琳太朗は悶々とした。
タオルで頭を軽く拭くと、真郷はドライヤーを持ち、琳太朗の後ろに立つ。
ぶわっと勢いの良い風に吹かれ、琳太朗は目を瞑った。
しばらくすれば、指通りの良い髪になり真郷は満足げな顔をする。
「はい、終わったよ」
ぽん、と優しく頭を叩かれて琳太朗は目を開ける。
琳太朗には、鏡越しの真郷の顔がまだはっきりとは見えない。
「ありがとう、先戻ってる」
「うん。瀧川さんも仕事落ち着いてたらお風呂どうぞって言っておいて」
今夜は泊まってくれるだろうから、と真郷は布団の準備をしなければならない事を思い出した。
泊まる日のために、瀧川の部屋も決めておいてある。
幸い広さは十分あるので、せめて不便はかけさせないようにと遠慮する瀧川を二人で説得したのだ。
明日からの仕事を思うと、少しだけ気が重くなる。
テストが終わり、夏休みが近づくごとに生徒たちの熱量も上がる。
もちろんその分拘束時間は長くなり、家に持ち帰る仕事も増える。
……うまく回せない自分が悪いのだと、真郷は分かっているけれど。
(傍にいたいって、思っちゃうからな……)
離れ難いのは、真郷も同じだ。
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