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第14話

11時を過ぎると真郷は塾に向かった。 見届けた後、琳太朗は真剣な顔で瀧川に相談していた。 「刃物を使わないのなら、オムライスとじゃがいものポタージュでいかがでしょう。真郷さんの好物ですし」 瀧川のその提案に、琳太朗は目をキラキラとさせる。 琳太朗は、真郷には内緒で料理が出来るようになりたいと瀧川に言っていたのだ。 以前よりも調子が上がったのは、安定した時間をくれる真郷のおかげだから、と。 お礼も込めて出来ることを増やしたかった。 しかしそれを真郷に教わるのはなんだか違う気がして、瀧川に相談するに至ったのだ。 オムライスの具はミックスベジタブルでいいし、肉はひき肉でも良い。 じゃがいもは蒸したものを潰して、伸ばせば出来上がる。 包丁を使わず、かつ真郷の好きなもの。 琳太朗が頭をひねっている間に、瀧川はさらりと答えてくれた。 「出来そうです、頑張ります!」 ありがとうございます、と笑顔を向ける琳太朗。 眩しそうにそれを見つめ、瀧川も穏やかに返事をした。 「私が隣で見守っていますから、安心してくださいね」 「はいっ。とても、心強いです」 明日の夜は、琳太朗一人だけの料理の日。 それまでは瀧川の料理の手伝いをすることになっている。 琳太朗は知らないことが多く、味付けもレパートリーもこれから勉強する。 しかも、完全に一人で料理をするには今の視力は心許ない。 覚えることはたくさんあるけれど、琳太朗にとっては期待が大きい。 自分に出来ることが増えるのは、何よりも嬉しいことだった。 真郷に頼りきりである現実が、ふとした時に大きな罪悪感になる。 もとより生活する力を持たない琳太朗は、まさに“これから”を夢見ている。 琳太朗の気持ちを咎める人は、もう居ないのだから。 「瀧川さん、お昼は何にしますか? 俺も、何か出来ますか?」 瀧川にも真郷にも、琳太朗は自分の思いをちゃんと言えるようになってきたのだ。

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