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第19話

ざぁっと強い風に煽られ、琳太朗の髪が暴れる。 真郷はそれを少し笑って見守りながら、繋いだ手に力を込めた。 琳太朗と真郷は昨日の約束通り、海に来ている。 瀧川に作ってもらった朝食を食べた後、丘を降りた。 庭の木々をかき分けた後は、ひらけた世界で。 ただただ広がる海を前に、琳太朗の未開の地への不安は消え去ったいた。 「すごい、広い……」 「な? ちょっと風は強いけど、今日は天気もいいし、海の色も綺麗だ」 空の色を写す海は、波を寄せながらキラキラと輝く。 二人はその景色に目を細めながら、しばらく海を眺めていた。 「足だけでも入ってみるか?」 「いいの?」 「あぁ。待ってろ、裾捲るから」 真郷は琳太朗の足元にしゃがんで、ズボンの裾を膝下まで捲り上げる。 それから自身の裾も上げた後、琳太朗の手をとった。 ゆっくりと近づくと、琳太朗のつま先に押し寄せた波が触れる。 「わ、冷たい」 「もう少し入ってみな、慣れてくるから」 二人は足首まで浸かるところまで進む。 波に逆らって足を前に出すときの抵抗する感覚が、妙に癖になる。 琳太朗がじゃばじゃばと片足ずつ海を蹴れば、飛沫が細かく舞った。 琳太朗の楽しげな表情に、真郷は顔を綻ばせる。 子供のように夢中になっている琳太朗が、愛おしくて堪らない。 遊び続けていた琳太朗が、急に「わっ!」と声を上げる。 真郷はぐいっと手を引かれ、大きな音を立てて転ぶ。 「ごめん、真郷……」 琳太朗の足が波にさらわられ、バランスを崩してしまったらしい。 盛大に海に飛び込んで、二人とも頭まで濡れていた。 申し訳なさそうに落ち込む琳太朗に、真郷はふっと笑う。 「待ってろ、タオル持ってくるから」 「真郷……」 「もう少し遊んでろ、溺れないようにな」 あんなに楽しそうだったのにな、と真郷は声に出さず苦笑する。 真郷は琳太朗の頭を撫で、家に戻っていった。 真郷が怒っていないと分かり、琳太朗はほっと息を吐く。 真郷の言葉を受け、波打ち際まで戻って今度は座ってバタバタと足を動かしていた。 潮風の匂いを感じながら、琳太朗は水平線を見つめて満たされたように微笑んだ。

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