23 / 64
第23話
「そう、琳太朗です。はじめまして」
琳太朗は、家の中を自由に出歩くことも許されていなかった。
同い年の子がいるという話は聞いていたが、この日まで会うことは叶わなかったのだ。
会いたいとずっと願っていたその人に、今会えている。
琳太朗は初めて胸の高鳴りを覚えた。
「これね、ランドセル。4月から一緒の小学校なんだって。お兄ちゃんのお下がりだけど、使ってって言ってたよ」
兄弟は琳太朗の存在を母から聞いてはいたが、会わないように父からきつく言われていたのだ。
郷留は言うことをきき、会うことは出来ないけれど琳太朗に何かしたいと思っていたのだ。
兄として、母親となった人が苦労しているのを間近で見ていたから。
4月に中学に入学する郷留から、せめてもと琳太朗に贈られたもの。
「ありがとう。あの、真郷くん」
「真郷でいいよ。僕たち、家族なんだから」
「かぞく……?」
「そうだよ。本当はね、もっといっぱいお話ししたいし、一緒にご飯も食べたい……でも、お父さんがだめって言うんだ。おんなじお家にいるのに、変だよ……」
しゅん、と悲しそうに眉を下げる真郷。
琳太朗はそれにおろおろとしてしまい、言葉もうまく見つけられない。
「だからね、こっそり会いに来たの」
「こっそりって、怒られちゃうんじゃないの?」
「だいじょーぶ! お父さんが仕事の間、瀧川さんにお願いして連れて来てもらえることになったんだ!」
ぱっと表情が変わり、真郷の顔がきらきらと眩しい。
琳太朗はそれにホッとして、でも秘密だからやっぱり怒られてしまうんじゃないか、と。
家族の輪に、自分は入れない。
「いいよ、僕のことは気にしないで。怒られるの、嫌でしょ?」
「いやだけど……でも、琳太朗とお話ししたいんだもん。学校行けばお昼会えるけど、お家でも琳太朗と会いたい」
そう真っ直ぐに告げられた言葉に、琳太朗は言葉を失った。
こんなに気にかけてくれる人を、母以外に初めて見た。
「会いたい」という言葉は、琳太朗も真郷に返したい言葉だった。
会いたい。
家族に、会いたい。
一人で部屋に残されたまま、みんなの話し声を聞くのは、もう嫌だ。
琳太朗の目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
ともだちにシェアしよう!