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第23話

「そう、琳太朗です。はじめまして」 琳太朗は、家の中を自由に出歩くことも許されていなかった。 同い年の子がいるという話は聞いていたが、この日まで会うことは叶わなかったのだ。 会いたいとずっと願っていたその人に、今会えている。 琳太朗は初めて胸の高鳴りを覚えた。 「これね、ランドセル。4月から一緒の小学校なんだって。お兄ちゃんのお下がりだけど、使ってって言ってたよ」 兄弟は琳太朗の存在を母から聞いてはいたが、会わないように父からきつく言われていたのだ。 郷留は言うことをきき、会うことは出来ないけれど琳太朗に何かしたいと思っていたのだ。 兄として、母親となった人が苦労しているのを間近で見ていたから。 4月に中学に入学する郷留から、せめてもと琳太朗に贈られたもの。 「ありがとう。あの、真郷くん」 「真郷でいいよ。僕たち、家族なんだから」 「かぞく……?」 「そうだよ。本当はね、もっといっぱいお話ししたいし、一緒にご飯も食べたい……でも、お父さんがだめって言うんだ。おんなじお家にいるのに、変だよ……」 しゅん、と悲しそうに眉を下げる真郷。 琳太朗はそれにおろおろとしてしまい、言葉もうまく見つけられない。 「だからね、こっそり会いに来たの」 「こっそりって、怒られちゃうんじゃないの?」 「だいじょーぶ! お父さんが仕事の間、瀧川さんにお願いして連れて来てもらえることになったんだ!」 ぱっと表情が変わり、真郷の顔がきらきらと眩しい。 琳太朗はそれにホッとして、でも秘密だからやっぱり怒られてしまうんじゃないか、と。 家族の輪に、自分は入れない。 「いいよ、僕のことは気にしないで。怒られるの、嫌でしょ?」 「いやだけど……でも、琳太朗とお話ししたいんだもん。学校行けばお昼会えるけど、お家でも琳太朗と会いたい」 そう真っ直ぐに告げられた言葉に、琳太朗は言葉を失った。 こんなに気にかけてくれる人を、母以外に初めて見た。 「会いたい」という言葉は、琳太朗も真郷に返したい言葉だった。 会いたい。 家族に、会いたい。 一人で部屋に残されたまま、みんなの話し声を聞くのは、もう嫌だ。 琳太朗の目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。

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