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第26話
怪我が増え、傷の痛みに耐えられず学校を休む日が出てきた頃。
真郷がふとした時に、その傷跡に気が付いてしまった。
「琳太朗、これ……」
ハッと息を飲んで、真郷を突き飛ばしてしまった。
血の気が引いていく中で、琳太朗の脳内には父親の声が響く。
『人に話せばどうなるか分かっているだろうな。お前はもちろん、母親もな』
自分の身だけではなく、母親も背負わなければならない状況。
琳太朗には打ち明けるなんていう選択肢は無かった。
ただ耐えていれば、きっとそのうち収まってくれる。
希望の薄い願いを抱いたまま、毎日が過ぎていった。
*
小学校を卒業し、中学に入学しても暴力は終わらない。
むしろ体が強くなった、などと勝手に言われて激しくなる一方だった。
最初の頃は通っていた学校も休みがちになり、真郷が部屋を訪れても拒むようになった。
「琳太朗、いるんだろ」
「開けないで。具合悪い、だけだから」
「だったら尚更開けろよ。俺じゃなくてもいい、瀧川さんでも医者でもいいから! 頼むから……顔、見せてくれ」
ドア越しに弱々しく呟かれたその言葉に、琳太朗の心は痛んだ。
自分じゃなくてもいいから、誰かに顔を見せて欲しい。
琳太朗が無事であることを確かめたい、真郷の切な願いだった。
「大丈夫。そのうち、治るから」
「……信じてる。学校も一緒に行きたいよ。琳太朗がいないと、さみしいからさ」
おやすみ、と声を掛けて真郷の足音が遠ざかっていく。
静かになった室内で、琳太朗はボロボロと涙をこぼした。
真郷以上に、琳太朗は顔を見たかった。
真郷に笑いかけてもらえれば、頑張れる気がした。
それでも、青く腫れた頬や治らない瘡蓋を真郷に見せるわけにはいかなかった。
そして、追い討ちをかけるように父の声がする。
「……お前、母親に似てきたな」
押さえつけられたベッドの上、いつも以上に琳太朗の体が震え上がった。
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