27 / 64
第27話
真郷の父親は、以前から琳太朗の母に想いを寄せていた。
しかし愛しい人が親友にとられ、悲しみを忘れようと仕事に邁進していたところに、転がり込んできたチャンス。
仕事ばかりに目を向けていたせいで愛想をつかされた前妻のことなど、もう頭にはなかった。
やっと思い続けた人と結ばれる。
それなのに、憎んでいた親友が残した証がいる。
琳太朗の父への憎しみは、子供はとそのまま移っていった。
次第に母の面影を強くしていく琳太朗。
暴力を振るううちに気付いた、もっと自分の欲を発散できる方法。
子供が3人いること、年齢的なもの。
仕事の忙しさから夫婦としての時間が取れなかったせいで、一切していなかった行為。
心の隅に居座る虚しさを無視して、父親は琳太朗と体を重ね続けた。
*
中学2年に上がる頃には、琳太朗は一切部屋から出られなくなっていた。
最初に与えられた部屋からも移され、父親の近くの物置を部屋代わりにさせられていた。
暴力よりも心を痛めつけられる行為に、琳太朗は抵抗する力を無くしていく。
受け入れれば酷くされないのだと気付いた時には、声も出さずに泣いて耐えた。
部屋が変わったことに気が付かない真郷は、もう自分の元に来てくれない。
「……全部、夢ならいいのに」
目を覚ましたら、父と母がいて。
変わらず3人で過ごせるんじゃないか。
長い長い夢から覚めれば、当たり前の日々が返ってくるんじゃないか。
その日から、琳太朗は1日のほとんどを眠って過ごすようになっていた。
父親に叩き起こされるたびに、まだ夢の続きだ、と。
起きている間の記憶も、少しずつ曖昧になっていく。
*
夜、ベッドの上でいつものように後ろからの痛みに耐える。
何も感じていないような顔で、声も出さずにただ揺さぶられているだけだった。
「そう言えば、真郷が最近うるさくてな……お前をどこにやったと、しつこく聞いてくるんだ」
真郷。
その名前に、すーっと頭の中の靄が晴れていく。
「この部屋を教えたんだ。直に来るかもしれないな」
言葉を整理する前に熱いものが出されて、思考を切られる。
ベッドの上に倒れこむと、父親はすぐに部屋から出ていった。
(……こんな姿、見られたら、だめなのに……)
ちっぽけに残った理性がそう言うけれど、琳太朗の体はもう動かない。
どうでもいいか、と。
意識を落とす寸前になって、琳太朗は希望を捨てた。
ともだちにシェアしよう!