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第28話
琳太朗がぱちりと目を覚ますと、肩まで布団がかけられていた。
暖かなそれに包まれて、琳太朗が寝返りを打ったときだった。
「琳太朗、起きたのか?」
細い声が、琳太朗を呼ぶ。
なぜ、自分の後ろから彼の声が。
琳太朗は恐る恐る後ろを振り向いた。
「まさ、と……」
「体、辛いところないか?」
赤く腫れた目を柔く細めながら、真郷はそう尋ねる。
目を見開いたまま静止してした琳太朗は、引きつる喉から必死に声を出そうとする。
話そうと思うほど、言葉にならない息が漏れた。
「……ごめんな。もっと早く、気付ければ良かったのに」
「いい、そんなの……どうにもならない」
「琳太朗、俺と家を出ないか?」
真郷の唐突な言葉に、琳太朗は反射的に聞き返す。
家を出る、きっと真郷となら、出来るかもしれない。
それでも……
「俺は、逃げられない」
自分がここを離れることで、母親に影響が出る。
それを思えば、逃げるなんていう選択肢をとるわけにはいかない。
とにかく今は波風を立てず、ただ従っていればは母は安全だから。
「いいんだよ、逃げても」
「……とにかく、俺はここから離れられない。だから、もう気にしないで」
頼むから自分1人だけに希望を持たせないでくれ、と。
琳太朗は目の前の光に手を伸ばすのをやめた。
「分かった。今は連れ出すのは諦める……でも、心配はさせてくれ」
傷が酷いから、と琳太朗の腕に巻かれた包帯に真郷はそっと触れる。
傷を撫でる真郷の手が、思っていた以上にあたたかい。
そこではじめて、琳太朗は自分の傷が手当てされていることに気が付いた。
「真郷、これ」
「傷の手当てくらい、俺にも出来るぞ」
「みた、の……?」
情事の後の、汚れた姿。
言葉に出さなくても、琳太朗の考えは真郷に伝わった。
「ごめん。見られたくなかったよな」
「ちがっ! 気持ち悪く、ないのか?」
「……父さんがしたことだと思うと、すごく腹立たしい。気持ち悪いよりも、俺は……琳太朗を、助けたい」
ぎゅっと琳太朗の上半身を抱きしめ、真郷はその肩に顔を埋める。
じわっと涙が染みる感覚と、真郷の震える体。
真郷の真っ直ぐな思いは、今の琳太朗にはあまりにも痛かった。
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