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第31話
結局誰にも明かさないまま、時は確実に進んでいく。
真郷が高校3年になる頃、ようやく琳太朗の体が男らしさを増した。
柔らかだった体の線が無くなり、中性的な雰囲気が薄まる。
見た目は変わっても、琳太朗自身の生活に変化はなかった。
周りの変化をあげるとするなら、2年の途中で真郷が塾に通い始め、会う時間が減ったことぐらいだ。
大学進学をする気がなく、真郷は家を出るつもりだった。
琳太朗を連れて出ていくなら、そのタイミングだと思っていたから。
しかしそれが親にバレてしまい、短大に通うこと、卒業まで塾に通うことを決められたしまったのだ。
それでも真郷は家から通える短大を選び、琳太朗から離れない固い意志を持っていた。
悔しげにそう話す真郷に、琳太朗は苦笑いをする。
「そんなに俺のこと、ここから出したいの?」
「当たり前だろ。もっと、ちゃんと……一緒に暮らしたい」
「なぁに、それ」
「もっと、ひとりの人間らしく、させたい」
その言葉に琳太朗は押し黙る。
まるで今が人間らしくない言い方だ、と言ってやりたかった。
言おうと思えばすぐ出るのに、何故かつっかえて出てこない。
「ごめん、泣かせるつもりじゃ……」
出そうにも、しゃくりあげた息が琳太朗の言葉を止める。
誰よりも分かっていた。
一度は諦めた、“自分”を認めてくれる家族との生活。
誰かの代わりにされて、でも自分として憎しみを向けられて。
曖昧に形成された自分が、琳太朗にはとても怖かった。
「ごめんな、あんな言い方……俺は、琳太朗をちゃんと見てるから。ずっと、変わらないから」
「真郷、っ……まさと」
真郷の胸に縋り付いて、琳太朗は涙をこぼす。
出会った時から変わらない、自分だけを見てくれる真郷。
真郷の存在は、琳太朗として存在を保つための唯一の支えだった。
*
しかし、その唯一の支えすら父親は奪おうとしてしまう。
「県外の短大って……父さん、どうして」
真郷の進路は父親に決められ、自由が消えていた。
反抗した真郷に与えられた選択肢は二つ。
短大の二年を県外で過ごし、卒業したら何もかも好きに出来る。
しかし、家から通える短大を選べば、すぐに家から出して二度と家の敷居跨がせない、と。
琳太朗を救うには、一つしか道がなかった。
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