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第32話
その日から真郷は、琳太朗に会うことを止められた。
最初は反抗して密かに部屋に行っていたが、その罰が琳太朗に与えられていたことを知ると止めざるを得なかった。
「ごめん」と言って目に涙を浮かべる真郷。
小さく「ずっと味方だから。必ず迎えに来るから」と言葉を残して以来、部屋に来なくなってしまった。
その言葉を信じて、また一人で耐える日々が続く。
すっかり男らしい体つきになってしまい、顔も母親の面影はあるものの以前とは変わってしまった。
その所為か以前よりも行為中に声を出すことを嫌われ、枕に顔を押し付けられるようになった。
記憶の中の母親を思い浮かべながら、体だけは琳太朗を使って。
ふと目があった瞬間の父親の嫌悪に満ちた顔が、琳太朗にとっては恐怖だった。
*
顔を隠して、声を押し殺して。
黙って俯くばかりになった頃、父親が琳太朗の顔を持ち上げて話し始めた。
「真郷が家を出た。もう、一生逃げられないだろうな」
出るはずの声が、掠れて吐息に消えていく。
動揺で瞳を揺らせば、父親はさも嬉しそうに笑った。
「お前を助けてくれる奴は、いなくなったな」
不愉快なくらいに大きく鼓動が鳴り、息が苦しくなる。
琳太朗は肩を震わせて、頭の中を整理しようとしていた。
(迎えに来るって言ってた……必ずって、言った)
真郷は約束を破らない。
そう、信じていたのに。
痛んだ胸に、また別の方向から父親の言葉が刺さる。
「そうだ……お前の母親は、案外まだ使えたよ。年の割には綺麗な体付きだったしな」
「……母さん?」
ガサガサの声で琳太朗がポツリと言葉を落とすと、父親は少し驚く。
卑しく笑ってから、父親は言葉を続けた。
「あぁ。お前はもう、母親の代わりには出来そうにない。そう話したら血相を変えて『私とした下さい』なんて言ってきたからなあ」
「母を使うなら、俺を」
「だから代わりにはならないと……」
「好きにして、いいですから。どんな扱いをされても、構いません……だから」
だから、自分だけにしてほしい。
母親には、想ってもない人として欲しくないから。
「言ったな? その言葉、忘れるなよ」
ぱきり、と何かが折れる音が聞こえた気がする。
それからの琳太朗は、たくさんのものを押し殺さざるを得なかった。
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