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第34話

――… 「琳太朗」 ぱちっと目を覚ますと、真郷が心配そうに琳太朗を見つめている。 琳太朗は何度か瞬きをしてから、長い夢を見ていたのだと理解した。 「あれ……おかえり。もう夜?」 「あぁ。仕事も終わったし、起きないって瀧川さんから連絡があったから、心配で早く帰って来たんだ」 「朝から、ずっと寝てた」 ここにくる前までの生活をもう一度やり直したような夢。 出来事も気持ちも完璧になぞってあったそれは、気分の良いものではない。 汗をかいた体に、濡れたシャツが張り付いていた。 「すごい汗……着替え、出来そうか?」 「うん。持って来てくれたらあとは大丈夫」 分かった、と真郷がタンスから着替えを出す。 脱いだ時に少し寒さを感じて、琳太朗がふるりと体を震わすとタオルが肌を撫でた。 「流石に一回拭くか。風呂は?」 「まだ下がってない気がするし、しんどいから明日にする」 素直に琳太朗がそう言うと、真郷はすんなりと受け入れた。 そうかと言いながら体を拭いて、琳太朗にタオルケットを羽織らせる。 「ごめんな。濡らしてからもう一回拭くから、少し待ってて」 パタパタと部屋を出て行く真郷。 そんなに急がなくてもいいのに、と琳太朗はクスリと笑った。 * あの日、真郷が迎えに来てくれた日。 あのあとは真郷に抱かれて家を出て、瀧川の運転する車で遠くへと移動したのを覚えている。 車に乗る間もずっと真郷に抱きしめてもらっていたから、琳太朗は不安にならずにいられた。 手を通じて行なわれる会話も、数回行うと慣れていったようだった。 「どこ、行くの?」 “うみのみえる べっそう” 「別荘……真郷の、お父さんの?」 “そう。 もらった” 簡潔な説明だったが、その裏で真郷は父親と何度も話し合っていた。 やっと決まったその場所は、もう好きにしていいと渡されたもの。 不安はいくらか残るものの、すでに数日前に別荘を掃除して、住む気は満々だった。 真郷はやっと、琳太朗と心の休まる場所を見つけることができた。 それから幾日も、琳太朗は真郷と瀧川に支えられながら生活していた。 優しさをかけてもらえる日々を重ねて、やっと今に至る。 最初はたどたどしかった真郷も、今では看病は手馴れたものだ。 * 「お待たせ。冷める前にサッと終わらせるから」 「お願いします」 丁寧に、それでも素早く体を拭かれ、琳太朗が一息ついている間に真郷は服を着せようとしていた。 琳太朗は「それは出来るのに」の言葉は飲み込んで、今はその優しさを受け入れることにした。

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