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第35話
琳太朗に服を着させると、真郷は肩を優しく押す。
それに促されるまま琳太朗はベッドに沈み、真郷を見上げた。
タオルケットをかけて、真郷は琳太朗の腹の辺りをぽんぽんと叩く。
「よし、寝ろ」
「真郷……隣、来ないの?」
「窮屈だと休まらないと思ってさ。いいなら、一緒に寝る」
琳太朗はタオルケットをめくって、真郷を迎え入れる。
真郷も特に言葉を発しないまま、空いたスペースに横になった。
「早く治せよ。また、少し長く散歩に行きたいし」
「うん。今度さ、買い物にでも連れて行ってよ。真郷と一緒なら、怖くないから」
「……あぁ。野菜の種でも買いに行くか」
そう言えば何か育てたいって言ったな、と琳太朗が思い出す。
琳太朗は、これからもっとたくさんの場所に行ける気がしていた。
それとは裏腹に、真郷は心配していた。
海に行けて自信がついたのはいいが、街中に行くとなるとまだ不安が残る。
琳太朗は怖くないと言っているけれど、人混みの中に連れて行くのはまだ早い。
まだ視覚も聴覚も安定しない状況で、琳太朗が喧騒にのまれてしまったら。
そう考えただけで、背筋が冷えていく。
「もう少ししたら、秋かぁ……」
「あぁ。庭の木も色づくだろうし、また違う景色が見られるだろうな」
季節の変化を感じられるようになったのは、最近のこと。
閉鎖的な空間から解放されて、刺さるほど鮮やかな世界に囲まれて。
止まっていた時間が動き出すと同時に、琳太朗は多くのことを吸収していった。
何よりも、人の優しさに触れることが増えた。
琳太朗の世界はまだ狭いけれど、その分真郷の愛情は深い。
「時間って、こんなに速く過ぎていくんだね」
外の世界に触れるようになってから、琳太朗はずっとそう感じていた。
代わり映えのない世界にいると、今どこにいるか分からなくなる。
時間の中に放り出されて、ぽつりとそこに浮かんでいるような気分。
「あっという間に過ぎていくもんな……そのうち雪でも降ってきそう」
「ここ、雪降るの?」
「あぁ、しかも結構深く積もるよ」
「わぁ……楽しみだなぁ」
子供みたいに待ちわびる琳太朗を、真郷は微笑ましそうに見つめる。
真白な雪の中ではしゃぐ琳太朗の姿が浮かんで、さらに真郷は笑みを深めた。
まだ先のことなのに、容易に予想がつく。
「すごいなぁ……たくさん、きらきらしてて」
すうっと眠りについた琳太朗の髪を、真郷が撫でる。
何気ない景色でも心が踊るのは、きっと琳太朗がいるおかげだ、と。
真郷も、知らぬ間に琳太朗に影響を受けていた。
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