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第36話
琳太朗の熱は翌日には下がったが、まだ無理はせずゆったりと過ごしていた。
真郷はリビングで採点の仕事をして、琳太朗は隣でそれを眺めている。
「……難しいね」
「応用の問題だからな。俺も勉強し直してるよ」
「勉強、かぁ」
ぽつりと呟いた琳太朗。
ほとんど学校に通えず、気付いたら体だけ大きくなってしまっていて。
公式が呪文に見えるし、漢字も読めないものがあった。
真郷が務める塾に通っている子たちより、知らないことがたくさんある。
それに気が付いた途端、琳太朗の中から悔しさが湧いてきた。
「勉強したいな……」
「分かることなら俺が教える。始めてみるか?」
「いいの?」
当たり前だ、と真郷が目を細める。
琳太朗は真郷の袖をキュッとつまみ、唇を噛んだ。
言葉にはしないものの、その顔には嬉しさが滲んでいる。
送るはずだった学校生活も、出来るはずだった友達も。
同じものをやり直すことは出来ないけれど、違う経験でも同じように楽しむことは出来る。
取りこぼしてきたものを、今なら大事に掬えるから。
「今度、参考書でも見てくるよ」
「俺もっ……見に、行きたい」
勉強道具を探しにというよりかは、外に出たいから。
そんな雰囲気がうかがえて、真郷は苦笑いをした。
「琳太朗……俺、心配なんだ。人混みの中で、もし離れたらとか。行くだけでも負担になるんじゃないかって」
「そりゃあ行ったら疲れるとは思うよ? いつも静かなところに居るからさ」
「なら……」
「でも、それ以上に楽しみなんだ。外に出て、人がいっぱいの騒がしい街並みは、もう長く見てこなかったから」
ね? と強請るような視線を向ける琳太朗に、真郷はぐっと黙る。
そう言われてしまうと、不安だからやめろとは言えなくなってしまう。
「……来週、だな。二人で行こうか」
真郷がそう折れると、琳太朗はぱあっと目を輝かせた。
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