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第37話
――…
あれから数日、今日は真郷の仕事が休みだ。
琳太朗は真郷よりも早く起きて、どきどきと期待で早まる胸を押さえる。
とうとう買い物に行ける、と緩む唇をきゅっとあげて笑った。
それから、隣でぽかりと口を開けて眠っている真郷の頬をつんと指先でつつく。
少しだけ眉間にしわを寄せ、小さく唸る真郷。
安眠妨害も案外楽しいものだと琳太朗はいたずら心を膨らませた。
「まーさーと、起きて」
「んぅ……ん? りん、たろ……」
真郷は寝ぼけ眼で琳太朗を捉えてから、その体にやんわりと抱きつく。
それから、ぽんぽんと規則正しく背中を叩いた。
琳太朗が眠れないのだと、勘違いをしているらしい。
「違うよ真郷……朝だよ。起きて、本屋さんに行くんだから」
真郷の額をぺしりと叩いて、琳太朗は体を起こす。
布団の中に入り込んでくる冷たい空気に、真郷は体を縮こめる。
次第に目を瞬かせながら、少しずつ覚醒していった。
ぼんやりした目を微笑ましく思いながら、琳太朗は目覚めの挨拶をする。
*
「とりあえず中学の漢字ドリルと数学でいいかな。他もやるなら見てみようか?」
「う……最初は、二つでいい。基礎が分からないから、いっぱいやれる自信ない」
丘の下までゆったりと歩きながら、2人はポツポツと話をしていた。
近くにある本屋は、人通りが然程多くない通りにある。
規模が小さい割には参考書が充実しているから、真郷はよく利用していた。
真郷の馴染みのある場所だ、と。
その事実で自身が落ち着いたと気付いた琳太朗は、ふっと笑う。
真郷に全面的な信頼を寄せているのだと、琳太朗は改めて感じた。
「琳太朗さ、やっぱり目はまだはっきりしないか?」
「うーん……ずっと見てるのは疲れるかな。景色より文字の方が見やすい気はする」
見えなくはないけれど、字が滲んでいるようにぼやける。
しかし、色彩がシンプルな文字は見やすく、新聞の短い記事くらいなら読み切れるようになっていた。
最近は新聞の連載小説を読むことも始めている。
そう話をすれば、真郷は明るく「そうか」と返した。
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