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第38話

「これは? 小学校からの復習が出来るって」 「あ、これいい。見やすいし」 「じゃあ数学……これも、復習からな」 本屋に着き、人がまばらな静かな店内で二人は相談していた。 中学生用の教材を実際にパラパラと中を見ると、琳太朗は難しい顔をしてしまった。 まずは二つとも復習から始めるよう真郷が流れを変えれば、琳太朗の不安顔が消えていく。 ああでもないこうでもないと話す時間を、二人は楽しんでいた。 思いのほか悩んで決めた二冊を持ち、琳太朗は嬉しそうにしていた。 その横顔を見ながら、真郷は小説が並ぶ棚へと歩を進める。 急いで真郷の服の裾を掴み、琳太朗はその後に続いた。 「何か買うの?」 「あぁ……あった。これ、あれば読むか?」 真郷は探し出した本を琳太朗に見せた。 いきなり読むか、と尋ねられて琳太朗はぱちぱちと瞬きをする。 「俺が好きな本なんだ。新聞読んでるって聞いて、これからは読書も時間潰しになるかと思ってさ」 「っ、読む」 食い気味にそう答えた琳太朗に驚きつつ、真郷は良かったと笑みを浮かべた。 勉強の教材二冊に、小説一冊。 会計に通す間も琳太朗は嬉しくてにやにやとしてしまった。 これからの為の始まりが、楽しみで仕方なかった。 「ありがとうね、真郷」 「どういたしまして。俺持つよ」 会計を終えると琳太朗がそうポツリと言った。 何でもないように真郷は返し、琳太朗が持つ紙袋に手を伸ばす。 琳太朗は笑って首を振り、「持ちたいの」と。 空いた片手で真郷の裾を持ち、店の外に出た。 「あれ? 真郷先生だ」 するとすぐに二人の後ろから声が飛んでくる。 複数人の声に真郷が振り向くと、塾に来ている生徒達がいた。 「おう。何だ、参考書か?」 「はい。ここにたくさんあるって先生が話してたから」 一人がそう言うと、真郷は顔を緩めた。 確かその話をしたのは何気ない世間話だったのに、覚えていてくれたのかと。 「そうか」と短く返したあとに、ちらりと後ろに隠れた琳太朗を見る。 俯いてきゅっと唇を結んでいる顔は、不安が滲み出ていた。 両手にも力が入っていて、緊張しているのがわかる。 早く切り上げようと真郷が声をかけようとすると、生徒からの問いかけがきた。 「先生もお友達と来てたんですか?」 「二人でお出かけですか?」 「先生って友達いたんですね!」 次々と飛んでくる言葉に、ぐっと真郷が押される。 いつも以上に元気がいいのは、プライベートが垣間見えて新鮮だからか。 自分にも視線が来ていることに気がついた琳太朗は、静かに息を詰めた。 「……この人は俺の家族だよ。ほら、お前らもここで喋ってないで。参考書買って遊んで勉強しなさい」 そう言い残し、ひらひらと真郷は手を振って踵を返す。 琳太朗はなんとかぺこりとお辞儀だけして、パタパタとそのあとに続く。 通りに人がいなくなった頃、真郷は琳太朗の頭を抱えるように優しくぽんぽんと撫でた。

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