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第40話

――… カタリ、と琳太朗はペンを置いてから大きく伸びをした。 真郷から指定されたページ数を終わらせるだけでも、疲労感が強い。 ごろりと寝転んだところで、瀧川が琳太朗に声をかけた。 「お疲れ様です、琳太朗さん」 「あ……ありがとうございます」 労いの言葉をかけながら、瀧川は静かにマグカップを置く。 湯気の立つそこには、温かなはちみつレモンが入っていた。 琳太朗は上体を起き上がらせて、それに口をつける。 ジワリと広がっていく暖かさに、ふっと口元を緩めた。 「ゆっくりお休みください。真郷さんがお帰りになるまで、まだ時間がありますから」 ジワリと馴染む視界でも、琳太朗には瀧川が優しい表情をしているのが見えた。 琳太朗は教材を買った日からほぼ毎日のように勉強をしていた。 最初は机に向かうこと自体が疲れるものであったが、数日経つとすんなりと身についていった。 分からないことにショックを覚えつつ、懸命に取り組む琳太朗。 その姿を、真郷と瀧川は親のような気持ちで見守っていた。 「はぁ……おいしい、寝そう……」 「お部屋でお休みになりますか?」 「や、ソファー……に」 飲み干したマグカップを置き、琳太朗は這うようにソファーに登る。 ごろりと横になると、瀧川が「失礼しますね」と声をかけて温かいタオルを目元に置いた。 「あ……これ、気持ちいい……」 ゆったりとした口調で琳太朗はそう言い、ふにゃりと笑った。 そして眠りに誘われるまま、すうっと意識を落としていく。 真郷に「頑張ったな」と微笑まれるのが好き。 「出来るよ」と励まされるのも好き。 間違っても怒らない、どうして間違えたのかを教えてくれる。 でもきっと学校じゃ、こんなに優しくしてもらえないんだろうな……と。 琳太朗は甘やかされていると、自分で気付いていた。 新しいことへの不安と、出来ない自分への悲しさ。 それを受け入れて進むために、甘えたかった。 一番不恰好な自分を受け入れてくれる人がいると、確信したかったから。 (真郷、今日も……褒めてくれるかなぁ……) 琳太朗を踏ん張らせてくれるのは、いつも真郷の言葉だ。

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