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第44話

「……わあ……すごい、キラキラ」 「綺麗だろ?」 通りの入り口に着くと、色とりどりのイルミネーションが二人を迎える。 中央には一際大きなツリーがあり、人だかりが出来ていた。 そこに導くように、道沿いの光は暖かな輝きを放っていた。 真郷の問いにこくこくと、興奮したように琳太朗が頷く。 黒い瞳に光が映って、小さな夜景が出来上がる。 真郷はそれを見つめながら、ふっと微笑んだ。 「これ、これっクリスマスだけ? ここでしか見れない?」 「12月になれば、他のところでも点いてるな……」 「そうなんだ! こんなに、綺麗なの……すごい」 夏に、どこまでも広がる海を見た時と同じドキドキ感。 あの時よりも暖かな胸をきゅうっと押さえ、琳太朗はイルミネーションに見惚れていた。 この感動を表す言葉が見つからない。 そんな様子の琳太朗に、真郷は満足げな顔をした。 世間ではありふれた景色でも、琳太朗はまるで宝物を貰ったかのように喜ぶ。 経緯を思えばその反応は切ないものだけれど、現に琳太朗は満たされていた。 「真郷、あの大きい木のところまで行ってみたい」 「……手、絶対離すなよ」 人が集まる、ツリーの近く。 遠くで見つめているだけでは、物足りなくなってしまった。 その気持ちを汲んで、真郷は手に力を込めて歩を進める。 応えるように琳太朗も握り返し、二人は恐る恐るツリーの前へ。 見知らぬ隣の人と、肩が触れそうな距離感。 人の動きがあるせいで、なかなか一点に留まって見ることが出来ない。 ふとすると流されてしまいそうな波に耐えながら、二人は見上げる高さのツリーに目を奪われていた。 そして一瞬だけ、二人が目を合わせた時。 「あれ? 真郷先生!」 後ろからドンと人がぶつかってくる衝撃に、真郷の手が緩む。 真郷が後ろを確認するのと、二人の手が離れるのはほぼ同時だった。 「琳太朗!?」 数人の塾生達がにこやかに立ったいたが、真郷はハッと振り返る。 琳太朗が立っていたところには、もう人はなく。 埋もれてしまう身長の琳太朗をあっという間に見失ってしまった。 胸がざわつくのを感じつつ、真郷は不安げな声を出す生徒に声をかけた。 「お前らも、見に来てたのか。人が多いから、はぐれないようにしろよ」 「ごめんなさい、先生……この前の、家族の人?」 「……うん。大丈夫、心配するな。ほら、子供は遅くなると危ないから」 大人だから大丈夫と、無理をして笑う真郷。 (大丈夫なもんか……!) 今一人にしたら危ういのは、子供より琳太朗の方だ。 真郷は生徒たちに別れを告げ、真郷は大きく息を吐く。 絶対離すなと約束した手を固く結び、真郷は太朗に姿を探し始めた。

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