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第45話

真郷という支えを無くした琳太朗は、ふらふらと人に押されるがまま。 気付けばツリーは遠く、来た方向とは反対の方に流されていた。 真郷、と何度か声を出そうとするが、途中で押される所為か言葉にならない。 しばらく流された後、恰幅の良い男性に弾かれて琳太朗はバランスを崩した。 雪の上にべしゃりと転び、思わず涙が滲む。 ここでは通行の邪魔だと通路の端へ行こうとするが、うまく立ち上がれない。 引きずるように波を抜けて、やっと落ち着いたのは路地入り口のゴミ箱の横。 コートも手も濡れて、ゴミ箱の横……惨めだと、琳太朗は自分を笑った。 涙の所為か、視力の所為か。 歩く人の顔が判別できず、先程まで綺麗だと感じていた光さえ刺さるように痛く感じる。 こんな大勢の中にいたのか、と琳太朗が現実を知ると鼓動が早くなっていく。 (こんな、中で……一人なんて) どっ、どっ、と身体全身が心臓になったみたいに音が響く。 喧騒も聞こえていたはずなのに、琳太朗の頭の中には鼓動の音しか聞こえない。 大きな不安が押し寄せて、琳太朗は身を縮めた。 なんでも出来ると思った……でもそれは、真郷と一緒だから。 一人になってしまえば誰よりも無力だと、琳太朗は愕然とした。 折った膝を両腕で抱え、そこに顔を埋める。 目も耳も塞いだら、不安が消えるだろうか。 また、何も分からなくなってしまえば…… そう琳太朗が思った瞬間、肩を揺さぶられる。 真郷だと信じて琳太朗が目だけを覗かせると、そこには老夫婦が立っていた。 心配そうに覗き込む二人は何かを言っているように見えたが、はっきりと見えず、声も聞こえない。 (ごめんなさい、怖い……こわい、助けて) 人の優しささえ怖く感じて、きゅうっと視界の端から暗くなっていく。 ぶんぶんと頭を振ってまた顔を埋め、真郷がくることを願うしか出来ない。 夫婦が置いてくれていた肩の温かみが消え、少しの罪悪感が芽生える。 「ま、さと……真郷、真郷ぉっ……」 目の前は真っ暗で、いつのまにか心臓の音さえ聞こえなくなっていて。 ただ胸が大きく振動していることだけは分かる。 子供のように泣き声をあげそうになった時、がんと耳に音が入ってくる。 「琳太朗っ!」 聞き慣れたその声にばっと琳太朗が顔を上げる。 きょろきょろとその声の主を探すと、少し先にはっきりと見える顔があった。 その人影は琳太朗に駆け寄り、強くその身体を抱きしめた。 「ごめん……ごめんな、琳太朗。怖かっただろう?」 「……手、離してごめんなさい」 「それは俺も悪かった。コート、濡れてるな」 「転んだのか?」と真郷は琳太朗の耳元で問いかけた。 真郷は優しく琳太朗の頭を撫で、次第に落ち着かせるように柔らかな声色で話していく。 何よりもまず、琳太朗の震えを止めたかった。

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