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第48話

電話を終えてすぐ、真郷は琳太朗に話をした。 「琳太朗、兄さんからの電話だった」 「何? ごめん、聞こえなくって」 振り返った琳太朗は真郷の目を真っ直ぐに見る。 夕食後にテーブルを拭く琳太朗には、はっきりとは届かなかった言葉。 面と向かって言おうとすると、少し緊張する。 「兄さんから電話がきたんだ。今度会おうって」 「……郷留お兄ちゃん?」 目を見開いた琳太朗は、ぽつりと兄の名前をこぼした。 もう何年も口にしていないその言葉に、ひどく懐かしさを覚える。 長らく話題を出してこなかった家族のこと。 傷を抉らないように、二人はあまり考えないようにしていた。 郷留が会いたいと言った中に、自分も含まれているのだろうか。 琳太朗はふとそんな思いに駆られ、服の裾をぎゅっと握った。 「俺も、会っていいの?」 「いいに決まってるだろ。俺ら二人に会いたいって」 「本当に? 嫌じゃ、ないかな」 “家族”を壊したのは自分なのに、と。 負い目感じる琳太朗は、途端に自信がなくなる。 それを十分理解している真郷は、琳太朗の頭をぽんと撫でた。 「年明けに時間くれるって。ここに来てくれるからさ……二人で、元気なとこ見せよう」 俯きつつ、琳太朗ははにかんで頷いた。 優しい兄の面影を思い出して、胸が温かくなるのを感じる。 家族だと、兄だと言って抱きしめてもらったあの日。 親とは違う信頼を寄せる存在が出来た日だった。 中々会えなくても、登下校中に会えば気遣ってくれる。 そして、自分のせいではないのに必ず謝っていた。 郷留に謝らせていることも、琳太朗にとっては心苦しかった。 「3日でいいかな。その頃には少し雪も落ち着くみたいだし」 「うんっ。時間あれば、ご飯作って一緒に食べたい」 僅かに目を輝かせて、琳太朗は言う。 出来ることをしたい……それが今、兄に出来る恩返しだから。 兄弟の暖かさを教えてくれた郷留に、ちゃんとお礼がしたかった。 その思いを汲み、真郷はしっかりと頷く。 1週間程先の事ではあるが、二人は既に緊張し始める。 それと同時に、郷留に会える喜びも胸に抱えていた。

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