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第50話
「……俺が、悪いんだ」
ポツリ、と琳太朗が話し始めた。
「父さんは、俺のことを嫌っていたから……だから、認めてもらおうと頑張ったんだけど……だめ、で……身体も、壊しちゃって……」
「……そうだったのか」
「無理して同じ家にいるより、離れて暮らした方がお互いのためだと思って俺が琳太朗を家から出したんだ。丁度俺も実家を出る予定だったからさ」
俯く琳太朗の肩を抱いて、真郷も話し出す。
二人とも嘘は言っていない。
しかし、核心には触れない。
何があったか、何をされたかなんて、今更言っても仕方がないのだから。
「ごめんなさい……俺が、いなければ……“家族”で、いられたのに。俺が、真郷を取っちゃったから」
改めて思いを言葉にすると、琳太朗は罪悪感に押し潰されそうになる。
自分が真郷から“当たり前”を奪ってしまったのだ、と。
そしてその思いは、郷留に対しても向けられている。
琳太朗という異質な存在が家にいる事で、どれだけ不安にさせてしまっただろう。
いつまでも、兄だと笑ってくれたままの郷留でいてくれるのだろうか。
普通の兄弟なら当然にある、弟に会う時間すら今まで奪っていたのに。
『俺がいなければ良かった』
その言葉に、琳太朗の全てが詰まっていた。
「……俺が、悪いの……お兄ちゃんが、俺の事嫌いになるんじゃないかって、嫌われて当然なのにっ……ごめんなさい……めいわく、いっぱいかけてるのに、ずっと、おれ……お兄ちゃんのこと、大好きで……っ」
琳太朗は話しながらボロボロと涙をこぼした。
いっぱいいっぱいの琳太朗は、ただ浮かんだ気持ちをまとめられないまま並べることしか出来ない。
しゃくりあげながら必死に話す琳太朗は、まるで幼い子供のようだった。
俺が悪いのに、俺が大好きなお兄ちゃんには嫌われたくなかった。
お兄ちゃんに嫌われるのが、怖かった。
だから、お兄ちゃんからも距離を置いたんだ。
身勝手な理由でごめんなさいと、ちゃんと伝えたいのに。
琳太朗は喉を引きつらせながら、悔しそうに胸元を握りしめる。
「……俺も、ごめん。俺……俺ら、兄さんに嫌われたくなかった。居ない間に勝手に決めて、勝手に出て行って、勝手に会わなくなって……」
真郷が『ごめんなさい』を言おうと息を吸い込んだ瞬間だった。
郷留は何も言わずに立ち上がり、二人に近づいて来る。
思わず身を寄せて息を詰める二人を、郷留は力一杯抱き込んだのだ。
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