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第51話
「お前たちだけじゃないよ……俺も、ごめんな」
そう言うと、郷留は鼻を啜る。
顔は見えなくても、郷留の震える吐息が泣いていることを表していた。
「知っていたんだ……父さんが琳太朗を蔑ろにしていることも、俺たち兄弟を愛してないことも。全部、分かってた」
「兄さん……」
「だけど、せめて俺があの人たちの望む姿になれたなら……いつか真郷も琳太朗も、俺らみんなを認めて、愛してくれるかもしれないって思っていたんだ」
(そうしてやれなくて、すまなかった)
郷留はズルズルと泣き崩れ、2人を抱く手に力を込めた。
歯を食いしばりながら涙を流す兄の姿に、真郷は狼狽えてしまう。
琳太朗はただただ涙をこぼしながら、郷留の思いを受け止めて静かに目を閉じた。
皆それぞれに想いがあって、それを互いに言えないままで。
やっと分かり合えた互いの思いの深さに、3人はそれぞれ胸を締め付けられていた。
*
「……ごめんな、みっともなく泣いて」
「いいじゃん、今まで我慢してくれていた分だろう?」
「ははっ! 俺は案外泣き虫だからな。実は隠れてたくさん泣いていたよ」
涙が止まった郷留は、赤い目を細めてやんわりと微笑んだ。
今まで優しさと暖かさを感じさせてくれていた郷留も、1人涙を流す日も少なくなかった。
しかし、溜めていた涙が溢れたことで自分たちの気持ちが明かされたのだ。
これからはもう、遠慮ばかりの兄弟である必要は無い。
一度涙が止まれば、張り詰めていた空気がふわりと穏やかになる。
晴れやかな気持ちになり、話題はそれぞれの現状についてに変わった。
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