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第52話

郷留は父親の会社を継ぎ、結婚もして実家から離れて暮らしているそうだ。 今年度で父親が完全に会社から離れる事になり、今後はもう父親と関わることはないだろう、と。 「……まぁ、母さんの事は気掛かりだけどな」 「お母さんは、元気?」 「この前会った時は元気そうだったよ。でも、これからは父さんとずっと家で過ごすことになるだろうから………大丈夫かなって」 母親も決して自由ではなかった。 父親は、妻を添い遂げるパートナーとしてではなく、アクセサリーの1つとしか考えていないようだった。 親友が連れ去っていった思い人をやっと手にして、それだけで満足感に浸っていたのだ。 母親は、この先父親とどう過ごすのだろう。 「……そうだ、琳太朗。身体壊したって言っていたけれど……もう平気なのか?」 「っ、うん! 結構良くなった。でも……まだちょっと、耳だけ聞こえづらくって」 家事の手伝いをして、勉強もして。 沢山のものを吸収してきた琳太朗だったが、未だに聞こえづらさは残っている。 「病院にはかかってるのか?」 「……聴力自体には問題がないんだって。俺の、気持ち次第なんだ」 琳太朗がそう言うと、郷留は傷ついたように顔を歪める。 それからそっと手を伸ばして、琳太朗の頭を軽く撫でた。 くすぐったそうにする琳太朗を見つめながら、真郷は琳太朗の手をそっと握る。 「心が癒えたら良くなるって、お医者さんが言ってたみたい」 「今これだけ笑えるようにもなったから、きっともうすぐだよ」 琳太朗と真郷は手を取り合って、郷留にそう言葉をかけた。 心配させまいとするだけではなく、本当にもうすぐ良くなれるのだとそう確信めいている。 凛としている2人のその姿に、郷留は逞しさを感じていた。

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